月恋 第142話 「艶やか」 ページ48
ファッション雑誌の仕事を終らせ、大ちゃんと一緒にドラマの撮影現場へ行くと、何だか周囲が騒がしかった。
今日は確か、ヒロインの「サヤカ」と相手役の「ユウタ」の二人の想いが漸く通じ合ったシーンを撮った後、「アカリ」と先生のシーンを撮影する予定だった筈だ。
撮影が順調に進んでいるのであれば、もうA演じる「アカリ」と朏さん演じる先生の撮影が始まっている頃である。
何かあったのだろうかと一度、周囲の異変を感じ取り、不思議そうに首を傾げている大ちゃんと顔を見合わせて少し前の方へと移動する。
「なんか今日の暦屋さん、色っぽくないか?」
前方の方へと移動したと同時に、スタッフさんの一人からそんな声が上がった。
Aが色っぽい?
俺はその一言を耳にし、更に首を傾げる。
何時も色気より食い気なうえに、駆や恋、郁に涙のチビ供と一緒になってはしゃいで、俺にだけ超絶生意気な口をきくAの姿が頭に浮かぶ。
性格も体型もお子様なアイツが有り得ないだろ。
スタッフさんの言葉を全力で疑いながら、朏さんとAの方へと視線を向ける。
今、撮影しているのは「アカリ」が先生の嘘に気づき、自分を無理矢理突き放して欲しくないと訴え駆けると言うよりも泣きながら勢いで詰め寄るシーンである。
「アカリ」のキャラ作りをしている途中で「涙が出てこない。泣けない! 夜さん、涙ってどうやって出すんですか?! 目薬? 目薬差せば私も泣けます?!」とAが余りにも「アカリ」と言う人物を丁寧に演じようとして、何度も何度も迷走して苦労していたシーンだ。
アイツ、昨日も「アカリに成りきって泣く自信がない」と嘆きながら練習してたからな。大丈夫か?
少し心配しつつ、アイツの撮影を見学することに。そして俺は彼女を見て、自分の目を疑った。
否、自分の目に写るAの姿を疑ってしまったのだ。
「好きな人がいるなんて嘘、私のことが嫌いなのも嘘! 先生は私が怖いだけ! 生徒である私を好きになってしまうのが怖いだけじゃない!」
頬をほんのり赤く染め、瞳を涙で濡らし、必死に先生に訴え掛けて息を切らし上下する薄い華奢な肩。
自分のことを受け入れて欲しい、拒否しないで欲しい、そんな「アカリ」の必死で切ない気持ちが溢れ出てきている。
そのせいか何なのか原因は分からないが、只、涙を流して泣いているだけだと言うのに今日のアイツは妙に艶やか。
別人の様な彼女に俺は目が離せなくなっていた。
月恋 第143話 「喰われた瞬間」→←月恋 第141話 「ちょっと遅めの忠告」
101人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
櫻餅(プロフ) - 2次元大好き人間!!!さん» コメントありがとうございます。不定期更新ですが頑張ります。これからもこのお話を宜しくお願いします。 (2018年3月21日 12時) (レス) id: eb7f0e71e0 (このIDを非表示/違反報告)
2次元大好き人間!!! - 続編おめでとうございます!これからの夢主ちゃんの成長が楽しみですね!!!更新頑張ってください!応援してます! (2018年3月21日 11時) (レス) id: 6896f5a2c1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:櫻餅 | 作成日時:2018年3月13日 2時