月恋 第121話 「真っ直ぐな光」 ページ27
辺りが緊張に包まれ、それをぶち壊すかの様にAが駆に抱きついた。
その様子を羨ましく感じ、「え、駆ずるい!」と声を上げようとした時である。
黒月さんがガチャリとプロセラ共有ルームの扉を開け、少し暗い面持ちで入ってきたのだ。この時点で嫌な予感がする。
だが、Aはオーディションの為にずっと努力してきたのだ。絶対大丈夫だと、自分に言い聞かせて不安を心の奥に押し込める。
「あの黒月さん、結果は………」
駆から離れたAが、恐る恐る黒月さんに結果を聞き、黒月さんが少しだけうつ向いて重々しく口を開けた。
「残念ながら、不合格だった」
その場の空気が一気に暗くなる。
オーディションに向けてひたすら頑張っていたAの姿を思い出し、何だかとてつもなく悔しくて悲しくて、やり場の無い怒りがこみ上げてきてどうしようもなく泣きたくなった。
目頭が熱くなり、視界が滲む。
俺はオーディションを受けた本人じゃないのに、どうして悔しがっているのだろうか。どうして涙が出てくるのだろうか。
それは多分、此処に居る皆が努力しているAの姿を見ていたからだ。
短いながらも初めての演技に戸惑い、試行錯誤しながら役柄を掴み取り、夜さんや葵さん達に熱心にアドバイスをして貰いながらオーディションに挑んだ。
丁度、テスト期間と被り、テスト勉強もしなくてはならなかったと言うのに彼女は弱音を吐こうとしなかった。
夜遅くまで自室の電気がついていて、翌朝には目下に隈が出来ていたりもした。
それだけ彼女は努力したと言うのに、オーディションは呆気なく「不合格」の一言で済まされたのである。
俺達以上に彼女はどんなに悔しいだろうか。
彼女が泣いてしまったら、思いっきり皆で抱き締めよう。そう思いながら、彼女の様子を見て驚いた。
だって、Aは目頭に沢山の涙を溜めて居るにも関わらず、それが溢れ落ちないようにぐっと堪えて真っ直ぐ前を見据えていたのだから。
「分かりました。黒月さん、ありがとうございました。また他のオーディションを受けてみようと思います。次は必ず合格できる様に頑張りますね!」
彼女は此処で立ち止まらずに、強い光を瞳に宿し、前へと進もうとしていたのである。
どうやら彼女は、立ち止まることをしない子の様だ。
それが決して良いことなのか悪いことなのか俺にはよく分からないが、１つ分かったことがある。
彼女は真っ直ぐで素直な子であると言うことだ。
月恋 第122話 「大雨注意報」→←月恋 第120話 「緊張する」
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櫻餅(プロフ) - 2次元大好き人間！！！さん» コメントありがとうございます。不定期更新ですが頑張ります。これからもこのお話を宜しくお願いします。 (2018年3月21日 12時) (
レス) id: eb7f0e71e0 (このIDを非表示/違反報告)
2次元大好き人間！！！ - 続編おめでとうございます！これからの夢主ちゃんの成長が楽しみですね！！！更新頑張ってください！応援してます！ (2018年3月21日 11時) (レス) id: 6896f5a2c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：櫻餅 | 作成日時：2018年3月13日 2時
