月恋 第95話 「悪戯っ子」 ページ49
「あの時はすまなかった」
たった一言。その一言を口にした瞬間、目の前に居る可愛らしい少女の大きくて澄んだ瞳から、たがが外れたかの様にボロボロと、大粒の涙が止めどなく流れ出した。
14歳になる少女が一人で、小さな町から東京まで飛び出してきたのだ。見知らぬ町に、見知らぬ人。そして初めてで慣れないことだらけの仕事。
環境が目まぐるしく変わり、知らず知らずのうちに精神的にも肉体的にも疲れていた筈だ。
それを全て心の奥底へと押し込んで、此処まで俺達に暗い顔一つせず駆け抜けてきた彼女は大したものである。
緊張が解けたことにより、ずっと溜め込んできたものが溢れだしてきたのだろう。
拭っても拭っても止まることを知らない彼女の涙。それをそっと、右手の人差し指で掬い取る。
「なんで、なんで睦月さんが謝っちゃうんですか。折角私のためを思って言ってくれたのに、八つ当たりしちゃって、何処をどう見ても悪いのは私の方なのに…………優し過ぎるんですよ睦月さん」
自分に対して厳しい言葉を掛けた俺を優しいと表する彼女は、まだまだ14歳の子供とは思えぬほど大人びている。
それでいて自分の非を素直に認め、「ごめんなさい」とたった一言。
言葉にするのが簡単なようで難しいその一言をすんなりと口に出来る彼女は素直で真っ直ぐな、穢れを知らぬ幼い子供の様だと俺は思った。
「まあ、お互い様か?」
そう俺が思ったことを呟くと―――
「そう、なんですかね?」
なんて涙で濡れた顔を上げ、少しだけ苦笑いにも近い小さな微笑みを浮かべた。
「…………それで、答えは見つかったか?」
一つ問題が解決し、早速と言わんばかりに一番重要である問題へと話題を移し変える。
ずっと気になって、仕方がなかったことだ。聞かないわけには行かない。
「皆さんのお陰で見付かりました。この後、ヒントを下さった隼兄や、この事を考えるきっかけをくれた文月さん。それに、ライブに誘ってくれた弥生さんにまたお礼を言いに行くつもりです」
俺の問い掛けに、彼女は勿論だと言わんばかりの先程とは打って変わった明るい笑顔で肯定の返事をした。
「それは良かったな。お前がこれからどんな風に成長していくか、楽しみにしている」
俺は、期待を込めながら彼女の艶やかな黒髪をそっと撫でる。
「すぐに皆さんの隣に追い付きますから、覚悟してくださいね」
そう言って悪戯っ子の様に笑う彼女は、今まで以上に魅力的に感じた。
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櫻餅(プロフ) - リュウヤさん» こんにちは。コメントありがとうございます。そう言って頂けてとても嬉しいです。これからもこの夢小説をぜひ宜しくお願いします。 (2018年3月27日 23時) (レス) id: eb7f0e71e0 (このIDを非表示/違反報告)
リュウヤ(プロフ) - こんにちは。いつも楽しく読ませていただいています。ヒロインちゃんと始さんのやりとりに、涙ぐんでしまいました。みんなが温かくて、素敵な作品をありがとうございます。続編も引き続き、追いかけさせていただきます! (2018年3月26日 8時) (レス) id: 707d2de435 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - snowさん» こんばんは。コメントありがとうございますm(__)mそう言って頂けて大変嬉しく思います。不定期更新ですが頑張ります! (2018年2月9日 21時) (レス) id: eb7f0e71e0 (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - こんばんわ。ヒロインちゃん、憧れの愛ちゃんに会えて良かったですね。いつも一生懸命な彼女に元気を貰ってます。これからも頑張って下さい! (2018年2月9日 18時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - 2次元大好き人間!!!さん» コメント有難う御座いますm(_ _)mこれからも不定期更新ですが、頑張っていきたいと思います。 (2018年1月10日 4時) (レス) id: d35033e969 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2017年12月26日 23時