月恋 第40話 「息苦しい空間」 ページ41
「Aちゃんはどんなアイドルになりたい?」
男性記者の何気無い質問に、私は言葉を詰まらせた。
此の空間がその質問によって、一気に息苦しいものとなる。
来ると思っていたこの質問。どんなアイドルになりたいか。このたった一言だけで、私の思考回路は一瞬にして停止した。
全く言葉が出てこないのだ。
弥生さんに言われた通り、どんな質問が来ても良いようにと出来るだけの事はした。けれど、どうしても此の質問に対する答えが出てこなかったのである。
「あの、私は………」
先刻まで、リズム良く来る質問を難なく答えていた私。今になって黙り込んでしまった私に不信感を抱き始めた男性記者が、眉間にシワを少しだけ寄せる。
「私は、皆さんを笑顔に出来る様なアイドルになりたい……です」
戸惑い、慌てて無理矢理答えをこじつける。しどろもどろで、目は右往左往と泳ぎ出す。
段々と小さくなる声で、漸く絞り出した答えは中身の無い空っぽのもの。
本当にそう思っているの? 直接言われていないが、男性記者の怪訝な表情から私の肌にヒシヒシとその一言が伝わってきた。
「分かりました。本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
先程まで開いていた手帳をパタリと閉じ、男性記者はいそいそと帰る支度を始め出す。そして室内を出ていく途中、1度此方を振り返り、冷ややかな瞳でこう言った。
「Aちゃんって、意外と詰まらないね。そんなんじゃ、この業界では生き残れないよ?」
その言葉と温もりの無い視線がグサリ、ナイフの様に尖って私の心に深く突き刺さったのである。
悔しくて堪らない。何か言い返そうにも、彼が言っていることは紛れもない事実。反論の仕様がない。
そして、身を持って実感させられた。
アイドルと言う職に対して、芸能界と言う厳しい世界に対して、私は真剣に向き合っていかなければならないことを………
私はこのままじゃ、愛さんに会う前にアイドルとして潰れる。
只々、愛さんに会いたい気持ちだけでは売れることが出来ないのだ。けれど、私は誰に何と言われようと此所で潰れる訳にはいかない。
父さんとの衝突を覚悟で此処まで来たのだ。愛さんに会うまで、私は絶対に芸能界で生き残りたい。
だから、私は早くどんなアイドルになりたいか、答えを見つけ無くてはならないのである。
私は焦るあまり、思わず下唇を強く噛み締めた。
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櫻餅(プロフ) - snowさん» コメント有り難う御座います。少しでも共感して頂けて、大変嬉しく思います。これからツキウタ。メンバーと関わり、夢主がどんどん成長出来るお話にしていきたいと思っておりますので最後までこのお話にお付き合い願えたら嬉しいです。応援有り難う御座います! (2017年12月21日 19時) (レス) id: 5dfdc31c69 (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - こんにちわ♪最新話読みました。ちょっと、自分のことみたいにホロリとしました。ヒロインちゃんが無事に乗り越えてくれると信じてます。目標が早く見つかること、祈ってます。頑張って下さい! (2017年12月20日 14時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - 櫻餅さん» 待ってます。急激に寒くなりましたので、風邪など引かないように気を付けてください。 (2017年10月7日 1時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - snowさん» ありがとうございます!そう言って頂けて嬉しいです!不定期更新ですが、頑張ります。 (2017年10月7日 0時) (レス) id: aab212b765 (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - 初めまして♪楽しく拝見させて頂きました。愛ちゃんへの愛が溢れていて、素敵でした。更新、楽しみにしてます。これからも頑張って下さい!! (2017年10月6日 9時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2017年9月19日 0時