【ツキウタ。】 月に恋せよ暦ガール

月恋 第38話　「謎の包容力」 ページ39

「弥生さん?!」

　撮影現場にひょっこり顔を出したのは、今日も眼鏡から独特の輝きを放つ弥生さん。

流石、眼鏡が本体と言われるだけはある。と一人納得する。

「Aちゃんの仕事場と俺の仕事場が近くてね。丁度終わったから、可愛い俺達の末っ子の顔を見に来たんだ」

　俺達の末っ子、その一言に胸の奥が何だかむず痒くなる。一人っ子だから、お兄さんが出来たみたいで嬉しいような、照れ臭いような気持ちだ。

「どう? 仕事は大分慣れてきた?」

　爽やかな笑みを浮かべながら、優しい声色で話し掛けてくる弥生さんから謎の包容力が放たれる。

「はい、少しずつ。でも、まだカメラを向けられると緊張します」

　先程まで、大人の色気がどうので悩みながらカメラに写っていた自分を思い出し、思わず苦笑い。

「そっかそっか。まあ、写真を撮られることに慣れてないと緊張しちゃうよね。でも大丈夫、夜も写真を撮られる事に慣れてなくて最初の方はガッチガチに固まっちゃってたんだ。
　最近は緊張こそするけれど、カメラに写る顔が柔らかくなったって言われてるよ」

　「要するには慣れだよ、慣れ」と笑う弥生さんの言葉を聞き、少しだけ気持ちが軽くなった。

　どう撮ったらそんな色気のある写真になるんですか?と聞きたくなる様な雰囲気を放ちながら雑誌に載っている弥生さんの言葉だからなのか、はたまたカメラに慣れていなさそうな長月さんの話だからかは分からないが妙に説得力がある。

「この撮影が終わったら、次はアイドル雑誌の取材だっけ?」

「はい」

「かなり難しい質問してくる記者さんも居るから、何を聞かれるか、それにどう答えるかって言うシミュレーションを頭の中でして置いた方が良いかもね。じゃあ、頑張ってねAちゃん!」

　私の頭を軽く撫でてから、弥生さんはまた次の仕事へ行った。矢張り、人気アイドルは忙しい。

「シミュレーションか」

　私は弥生さんに言われた通り、どういう質問をされるか、それにどう答えるか、撮影が開始されてからも考えた。

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