【ツキウタ。】 月に恋せよ暦ガール

月恋 第28話　「チキング」 ページ29

「ポッポッポッポッ、ポチ丸さん! 餌の時間ですよー」

　卯月さんとのおかしなやり取りを終え、先程作ったばかりの歌を口ずさみながら、カメレオンの餌とカルシウム剤を、ポチ丸さんの家であるケージに持っていく。

「……え?」

そして、自室の隅の方に置かれたポチ丸さんのケージを見て目を疑った。

「ポチ丸さん?!」

　ケージの扉が開かれ、其処に居る筈のポチ丸さんの姿は見当たらず。ケージの中に設置されていた細い木の枝が、冷たいフローリングの床に転がっていたのである。

　ポチ丸さん、引っ越しをして半日も経たずに脱走。まあ、実家でもよくあったことだ。ポチ丸さんは脱走常習犯、落ち着け私。

　自室の窓は閉めきっているし、ドアも私が来るまでは誰も開けなかった筈。詰まり、ケージから出たとしてもポチ丸さんが外に出ていける状況ではない事を判断し、部屋の中を捜索し始める。

　ベットの下だったり、本棚の上だったり、ポチ丸さんが隠れそうな場所を隅々まで調べる。

　カメレオンは体色変化が得意な生き物。だから、背景と同化している可能性も踏まえて探すも見当たらない。

「ま、まさか!」

何処にも見当たらず、私は顔面蒼白。

　ポチ丸さんは脱走好きだが、臆病な性格で中々外に行きたがらない。そうなると、この寮の外に出たとは考え難い。

　寮の中を探せば良い話だが、爬虫類の苦手な人の所へ行ったりしたら驚かせる上に怖がらせてしまう。

　例えばチキングの卯月さんなんかは、カメレオンに問わず爬虫類に耐性がなさそうなイメージがある。

此処の方達に、己のペット事情で迷惑をかけるわけにはいかないと、私は急いで自室から飛び出した。

「ぽ、ポチ丸さーん!」

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