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大谷は最後の夏、甲子園に来なかった。
別に期待していたけでは無いし、誰もが勝つ為に闘っている。誰が来たって私のやるべき事は変わらない。でも、どこかしらであの日の続きを見られる気のではないかと期待していた。
藤浪「珍しいな、Aが誰かひとりの選手気にするって」
「……別にそんなんちゃうし」
藤浪「どーだか」
私の事をよく知っているこの男には否定の言葉が意味ない。それでも咄嗟に口から出たあたり、本心を隠したいと思ってる事を認めざるを得なかった。
容赦ない日差しと、
乾いた土の匂い、
時折吹く熱風のような風がもう二度と戻らない時を覚えさせる。
この甲子園、最後の夏が始まる。
この夏が終わりを迎えるとき、
私は何を見ているのだろう。
ふと、そんならしくない事が最近脳裏に掠める。
隣に立つ晋太郎はきっと上の舞台で戦うのだろう。
そこにあの男も居るのだろう。
でもきっと私は立てない。
とっくに分かっていたはずの事実が少しだけ、
残酷で、寂しくて、苦しくて、悔しくて、
ずっと夢見てきたはずのこの夏が私には眩しすぎた。
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_大阪桐蔭有栖川、勝利を呼び込むダメ押しの一打!!
_自身の持つ選抜での記録を塗り替え脅威の7打点目だ!!
_大阪桐蔭、史上7校目春夏連覇達成です!
ただ、我武者羅に白球を追いかけた。
野球と出会ったあの日と同じ。
期待や重圧なんで別世界のもので、
ただひたすらに目の前の試合が、隣に居る仲間と共に過ごす時間が楽しくて仕方なかった。あの瞬間だけは初めて結果が副産物だと思った。
藤浪「A」
森「アリスちゃん」
「……ありがとう」
乾いたハイタッチ音が甲子園に響いた。
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作者名:まめだいふく | 作成日時:2024年3月18日 19時