百三 ページ3
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脚色された話。
よくある話。
あの日の夜更けは霧も出て視界は悪かった。
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勢いよく店から出た紫苑と男を店の人間が一斉に追いかける。
店の名誉がかかっているだけに必死になるのは当たり前だ。
追いかけられ逃げて、逃げて、逃げ場を失って流れの早い大川の川岸でいざこざがあって店の男数名が傷を負い、亡くなったものもでた。
男は紫苑共々川に身投げ。慌てて紫苑だけでもとなり船を出すも助かるはずもない。
あの日の大川は流れが速く一瞬で二人が沈んでいくのが見えたと花街から来た野次馬たちは口にする。
それくらい……あの日の夜は異様な空気だった。
店から大川までの距離はそこまで遠くはない。
長屋の人間、同心が気づかなかったのが救いだと言う人までいる。
喉元を擦ってから視線を空に向ける。
自分の知っていた男の姿がない理由を一番わかっている。大川の見えるその場所で黙って見ていると『お前が食ったんだろ?』っそう聞こえ、振り返ればカラスがこちらを見ているのに気づいた。
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「カラスか。」
そう口にすれば足元近くに降り立ち羽根をバサバサとさせた。
「目立つやん、声かけんでや。」
『俺の声は隆平にしか聞こえへんから大丈夫やねん。独り言を言うてる奴にしか見えへん。』
「……意地悪ですね。」
隆平の言葉にカラスは小さな木に止まり言う。
『うまかっただろ?』
突然の言葉に隆平はカラスを睨みつける、
「そんなことを言わんで！」
『認めたらええねん。』
「認めるわけないやんか！」
『一緒にいた兄ちゃんに見られたのに？』
その言葉に微かに唇が動くとカラスは上下に首を動かす。
『あの兄ちゃん大丈夫なん。』
「……お前に教えてもらった通りした。」
『あの時の出来事は霞がかかって何をしているか分かってへん。だから何も言わんかったやろ？』
その言葉に素直に頷くと『侯隆に教わったん。』と口にする。
「きみたか？」
『むっちゃ怖いねん。』
「カラスも怖がる人ってどないやねん。」
思わず苦笑いして言うとカラスは鳴いてから『いつか会える。』そう言葉だけ残して飛んで行く。再び川に視線を向けてから喉を押さえてから隆平は目をぎゅっと閉じた。
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作者名：瀬奈 | 作成日時：2021年11月5日 16時
