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「そうだけど。」
「すいませーん、ハイボール。」
完全に話をぶった切るとユリカは口を尖らせて「だってぇ。」なんて甘えた口調なんやけど、そうやってかばってくれるのは嬉しいんやけど俺は正直忘れたい案件。
店員さんが持って来たハイボールと空きグラスを好感してから一口飲むと倉田さんがじっとこっちを見てくる。
「なに？」
「戸越さんから聞きました。」
「聞いちゃったの？」
「だって、むかついたんですもん。」
「俺を嫌っている人は多いからねぇ、営業の先輩。」
「大倉さん悪くないじゃないですか。」
「そうなんかな。」
新たな煙草を吸い俺がそう言うと倉田さんは少しだけ驚いた顔をして俺を見た。
「選ぶのはお客さん。俺はお客さんに選ばれなかったからそうなっただけ。」
店内の音楽が少し大きく感じるのは騒がしい席から離れているってことのせいだと思う。
「倉田さんさ。」
彼女の顔が上がり「はい。」なんて少し酔ったのが分かるのは頬の赤さ。照明が少しくらいこの店でもわかるってそこそこやって思う。
「二人で飲まへん？」
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どうしてこんな言葉を言ったのか自分でも分からへん。
なんとなく？
ちゃうな。
まっすぐな目で「大倉さんは悪くない。」ってその言葉を言われたのが嬉しかったん。会計をしている中でみんなが個々に分かれていく中で俺は倉田さんの手を引いて輪から離れた。ユリカが俺を探している気がしたんやけど、少し奥まった路地に入って2人で笑いを我慢する。
「有田先輩探してますよ。」
「アイツ、まだ飲む気やで。」
「まだですか？」
「酒強いねん。で、送って貰おうとする魂胆。」
「休みだから？」
「そう言うこと。」
なんだろう？
路地の薄暗いこの場所でも倉田さんの嬉しそうな表情を見て、交換したアクスタ見てむっちゃ喜んでいた時と同じやって。
「大倉―！」
笑い声が出そうになるんやけど、奥に隠れ目の前にいる人の楽しそうな顔を見たら行動をしてしまう。
騒がしさが聞こえなくなるまでほんの数秒
恥ずかしそうに俯く倉田さんに「ごめん。」と言う。
酒の勢いなのか
この場所だからなのか
分からへん
まだ探しているんやけど、ユリカ
ジャケットを掴む手が強くなったのを俺は気づき倉田さんを見ると俺をじっと見つめてくる。
俺は黙って彼女を抱きしめていた。
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作者名：瀬奈 | 作成日時：2021年1月18日 20時
