4．ほんのりとじんわりと ページ5
夜がほんのりと明けてきて東のほうからチュンチュンと可愛らしい声が聞こえてくる。
ハツラツとした自身の声と落ち着きのあるカイザーの声が広々としたキッチンに響いた。
じゃんけんぽん。
「ウワ〜〜負けた〜〜！」
俺の突き出した拳の向こうではカイザーがその大きな手のひらをひらひらと舞わせていた。
「それじゃあ頼んだぞクソA」
腹が立ちあがってどこかへ走り抜けていきそうなほど整った顔立ちをしているこの皇帝はふあぁとあくびをひとつ残して寝室へと踵を返した。
「なーんでこの俺が朝ごはんなんぞ作らにゃならんのだ……」
自業自得である。
まだすやすやとアホ面晒して寝ているカイザーを叩き起こして腹が減ったと、飯を作れと喚いたのだ。
朝は機嫌が悪いカイザーに股間を蹴られたのちじゃんけんで朝食を作る担当を決めることとなったのだが見事に負けた。
そして卵を溶きながら考える。
カイザーのヤツ、標的、つまりは俺の股間を捉えてから右足を振り抜くまでの速さが尋常じゃない。じゃんけんだって鬼強いし。アイツ何か見えてんじゃねーのきっしょ。
「おっ、上手くできた！」
フライパンに並ぶ色形のよい卵焼きを見て感嘆の声を漏らした。
自慢気にふふんと鼻を鳴らして、野菜やパンと共にプレートに盛りつける。
プレートをあたたかい木目調のダイニングテーブルに置き、ひとり楽しく二度寝に勤しむバカイザーの部屋に一声かける。
「カイザーご飯できたよ」
「…………ん……A」
言葉ではないためイヤホンで翻訳されず全くイヤホン越しではない、少し掠れた色気のある声が耳へ飛び込んできた。
そんな声で名前を呼ばれたことに驚きを隠せず、「先行ってるからッ、！」とダイニングへ小走りで向かった。
「……遅い」
「クソうるせぇ」
歯磨きと洗顔を終えそれなりに目も覚めたカイザーが隣に座る。いただきます、と手を合わせるとカイザーは覚めたばかりの目をぱちくりさせた。
日本では食事前後に手を合わせるのだと教えてやるとカイザーは子どものように真似をして手を合わせた。それがなんともおかしくて心がじんわりとした熱に覆われた。
そのときちょうどテレビでは、ドイツへ旅行に来ていた日本人の男子高校生が行方不明になっているという報道がされていた。
今日は少し冷えるみたいだ。
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作者名：ちばさんだよ | 作成日時：2023年9月2日 20時
