1．青いお団子 ページ1
日本の夏とは段違いな爽やかな朝の空気が頰をかすめた。なんなら少し肌寒いくらいで暑さに滝の汗を垂らしていた去年までの自分が滑稽に思えてくるほどである。
「えぇっと、グーテンターク！！」
すれ違った女の人に、日本でいう「こんにちは」を言うと女の人は俺を見て微笑んだ。そしてなにやらよくわからない呪文を唱えて行きなすった。俺はグーテンタークしかドイツ語を知らないため、ナンノコッチャなのだ。
おとぎ話の中に潜り込んだかのようなドイツの町並みに心が踊る。ふんふふんと軽快に歌いながらでっけぇソーセージ、いわゆるフランクフルトにかぶりつく。うめぇっす流石っす大好きっす。
はじめてのドイツで調子に乗り、食べすぎて腹が苦しくなった俺はそそくさと人のいない道へと避難する。なんてこと、汚いベンチしかない。重い腹を守りながらきれいなベンチを探す、その時だった。
「ぅえおっ」
自分でもドン引くような可愛げのない声とともに俺の腕は引っ張られ、見事高そうな車の後部座席に着地した。
運転席には俺の手を引いたのであろう男がひとり座っている。男はキャップを深く被っていてキャップから青色をしたお団子がひょっこりと顔を出していた。
あれ。これやばいやつかもしれない。
「あの、誰ですか？」
しまった、俺はグーテンタークしかドイツ語を知らないんだった。しかも多分誘拐されてるってときに誰かを聞くのもそこそこにやばい気がする。
何をしてもいいのかわからずにただひたすらに汗を流す。去年までの自分より汗をかいているかもしれない。
人気のない道、車は道路の端に寄せられてそのまま止まった。
そして男はこちらを向いてなにか手渡してきた。
「イヤホン……？」
男がなにか言っている。つけろ、ということだろうか。
「名前はなんだ」
びっくりして俺はイヤホンを反射的に外す。日本語だ。男が、日本語を喋っている。もう一度つけてみると、
「名前はなんだ」
男はまるでBotかのように言葉をリピートする。
「……A」
誘拐犯に名前なんて教えても良いのか、少しの不安を抱えたまま言う。すると男は「Aか、良い名だ」と不敵に笑って言った。その余裕を持て余した笑みは平民を見下ろす
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作者名：ちばさんだよ | 作成日時：2023年9月2日 20時
