◇君の残した宝物---sm ページ5
《ﾀﾋネタ注意》
目の前には広い海が広がっていて、
くるぶしくらいまで浸かるところにただただ呆然と立っていた。
''『スマイル！』''
昔から真面目で、俺とは違って明るい大好きな声が後ろから聞こえて思わず振り向く。
そこにはカメラ越しにこちらを覗く婚約者がいた。
「A…」
''『ほーら！笑って笑って！』''
笑顔で言われた要求にぎこちなくも笑って見せる。
カメラのシャッターと同時に広がる白い光。
ーーー
「……A…？」
瞼を開けて、それが夢だったことに気がつく。どうやら椅子に座りながら寝ていたようだ。
体を預けていた机の上にはアルバムが開いてあり、
海辺でぎこちなく笑いながらピースをする自分が写っている写真があった。
他にも読書をしている自分、ゲームでドヤ顔をしている自分……全部そこに写っているのは俺だけだった。
本人には言えなかったが、大好きでたまらなかった婚約者・Aが病気で死んでから
もうじき一週間が経つ。
いつまで経っても整理できなかった彼女の部屋を、つい昨日片付け始めたのだ。
そこでアルバムを見つけて、もう戻ることのない思い出達を見ながら眠ってしまったようだ。
「…整理、続けるか。」
左手の薬指にはめられた指輪を撫でた後、椅子から立ち上がった。
俺と似て昔から片付けの苦手な彼女の部屋には、本やら人形やらが散乱している。
ふと、人形が部屋の隅に山のように集められているのが気になり、人形達を退けて行く。
「？これ…プレゼント……だよな。」
人形達に隠されていたのは、紫のリボンで結ばれた小さな木箱だった。
どうも気になってしまい、リボンを解いて箱を開ける。
すると、中から出てきたのは鍵と〈Happy Birthday Smile〉と書かれた紙だった。
彼女が俺の誕生日に用意していたのだろう。
運良く今日は俺の誕生日。この鍵の部屋はあらかた想像がつく。
人形が散乱してしまったにも関わらず俺はその部屋を目指した。
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作者名：長月チョコ@09 | 作成日時：2023年10月12日 18時
