白い尾っぽの短編集 (ページ19)

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おにーさん……いや、青年の後ろ姿を見送った後。
私は桜の枝に座って赤っぽい月を見ていた。
あぁ、現世(あっち)では月は青いのかな。

『……危なかったなぁ。流石に何の罪も無い青年くんを死なせちゃうのは良くないよね。』

何十年とこの枝に結び付けられた首紐の結び目をなぞる。
ここに縛られて早何十年。私はあの時と変わらぬ姿で月を眺めている。

私の最後の記憶には、月が写っていた。
酸素を求めて心臓をバクバクと鳴らした、心とは正反対の体とも
何十年と会っていない。もう会うことはないしできない。

『さてと。もう寝ようかな。』

マフラーを外すと、桜の木からいつのまにか現れたリスがマフラーを欲しそうにこちらを見ていた。
枝の間に蛇のとぐろのようにマフラーをおくと、リスがそこに入って寝る体制をとる。

優しく頭を撫でてやると、ゆっくり瞼を閉じていった。

『おやすみ。世界。』

少女の首には絞首の跡があった。

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