イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ5)

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165.切り取りたい景色。ページ5

夢の中まで、先生は会いに来てくれたんだろうか。

「......覚えてない...」

翌朝、夢を見たのかどうかすら分からなくてベッドの淵に座ってちょっと考えた。

「......思い出せない」

もうちょっとだけ考えて、自分がやってる事のバカバカしさに自嘲する。

だけどベッドサイドに置いてるスマホを手に取って、昨日のやり取りを見直すとやっぱり胸がキュンとするし、本当に先生は夢に出て来てくれたんじゃないか？って思ってしまう。

王子様だ...あの人、王子様だ...

「...フフッ、私バカだ」

自分の思考が本当にバカみたいで、朝から何度も一人で笑った。

仕事中も、時々思い出し笑い。
加藤さんに「幸せそうで不愉快」って笑われて、小山さんには「良い笑顔だ！」って何故か褒められた。

・

その日の仕事を終えて店を出た私は、先生にLINEを送った。

『仕事終わりました』

先生、どこに居るんだろう？
キョロキョロしてみるけど、店の周りにはその姿は見えない。

「さむ...」

マフラーを口元までギュっと上げて、スカートの皺を伸ばすようにパンパンと左手で払ってると右手の中のスマホが震えた。

『桜公園まで来れる？』

桜公園...

その方向に目をやって『はい！すぐ行きます！』そう返し、思わず駆け出してしまった脚を少しだけ落ち着けて早足で桜公園に向かう。

公園の傍まで行って、そこに車が停まってる事に気付いた。
そして、車に凭れるようにして立ってる人にも。

俯き、スマホを弄ってるその姿。
前髪が顔を隠してしまってちゃんと見えないのに、それだけで苦しくなる位にドキドキする。

「......先生！」

私の声に顔を上げた先生が、アハ、って笑って

その口元から白い息が、ふわりと溢れた。

それがとっても綺麗で、景色ごと切り取ってしまいたいと思った。

軽く手を挙げた先生に、もう我慢できずに走り寄る。

「先生！」
「お疲れさん」

ポンポン、頭を撫でられてもうフニャフニャになりそう。

「明日も仕事？」
「え...？うん、明日は早朝からなんです」
「そっかー...」

少し口を尖らせた先生に「何で？」って訊くと、「今日は連れ回せないなと思って」って言われた。

「...連れ回されたいです」
「フハハッ！だーめ。オレは明日も休みだけど結城がしんどくなるでしょ？」
「別に良いのに...」
「ンフフ、拗ねんなよ」

またポン、と頭を撫でられて

「じゃあ、ちょっとだけドライブするか」

先生が、助手席のドアを開けた。