イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ39)

今日:5 hit、昨日:20 hit、合計:2,659,928 hit

199.顔に出る。ページ39

本来の目的だった本を借りて、玄関で靴を履く先生の背中を見詰める。

靴を履き終えて、振り返った先生が私を見て「お前は...」って困ったような顔をした。

「...え？」
「何ちゅー顔してんだよ」
「顔？」
「あー...無意識なのね」

意味が全然分からない...って思いながら、私も靴を履くと

先生が私を抱き寄せた。

「えっ...！？」
「あれ？こうして欲しいんじゃなかったの？」
「あっ...えっ...」

どうしてバレたんだろう！？
言ってないどころか、隠してたつもりなのに！

本当は、帰る前にもう一回抱き締めてくれないかな...って

もう一回...もう一回だけ...。

先生をチラっと見上げると、掬い上げるようにキスをされた。

「さて、帰ろっか」
「...何で分かるんですか...」

もう一回、キスしてくれないかな...って思ってた事。

「言ったでしょ？Aは全部顔に出てる」
「...隠してたつもりなのに！」
「隠せてねぇよ、むしろ誘ってたけど？」
「さそっ...！？誘ってなんか無いっ！」

私がアワアワしてるのを、先生はケラケラ笑って

からかわれてるのに、でも何だか嬉しくて

玄関を出た所で先生の腕にギュっとしがみ付いたら「だから、箍が外れるって言ってんだろ」って頭にポンと手を乗せられた。

うちまで送って貰う車の中。

そう言えば、まだ話してない事がある事を思い出した。

「あの、先生？」
「どした？」
「先生って、来週の土曜日は何か予定ありますか？」
「土曜？いや、別に無いけど」

その答えに、ガッツポーズを出したくなる。

「私、お休みなんですけど...」
「え？土曜なのに？」
「店長が毎週は無理だけど、月に数回だったら週末に休みとっても良いよって」
「マジで？」
「何か、頑張ってるご褒美だって言ってくれました！」

なんて。
本当は、加藤さんが小山さんに「Aちゃん、彼氏が出来たんだけど相手は土日しか休み無いのに働かせるの？それってパワハラ？」なんて言ったのがキッカケなんだけど...。

もちろん、小山さんは「パワハラじゃねぇわ！」って笑いながら、私とちゃんとシフトについて考えてくれた。
『頑張ってるご褒美』ってのも、本当に言ってくれたし。
だから先生に言った事も嘘じゃ無い。

「そっかー。じゃあ、どっか行くか」
「ホント！？」
「ンフフ、この言葉を待ってたんだろ？」
「はい！」
「分かりやすい」
「フフッ」

どこ行こっかー？って、先生が口笛を吹きながらハンドルの上で指をトントンと鳴らした。