イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ35)

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195.秘密のノート。ページ35

私がゆっくり本棚を眺めてる傍で、先生も時々本を出してパラパラ捲ったり。

ページが捲れる音って、心地良い。
緊張してたはずなのに、何だか不思議と落ち着いて来た。

ふと部屋の奥の机に目をやるとその上にはノートPCや、書類の山、ペンケース。

「先生、ここでテスト作ったりするんですか？」
「仕事場だからね」
「そうなんだ」

一個一個、先生の色んな事を知る。

「あれ...これは？」

ペンケースの下にあった、ノート。
表紙に『すだち』って走り書きしてある。

「...すだち」
「あー！それは見なくって良いよ」

先生が隣にやって来て、そのノートをサっと取ってしまう。

「あ！もしかして、歌詞ノートですか？」
「はいはい、そうそう。もう良いでしょ？」
「見たい！」
「...嘘でしょ」
「見せて下さい！」

すっごい嫌そうな顔してるけど、ここで引き下がれない！
だって、先生の紡ぐ言葉なんて絶対に読みたいもん！

「大丈夫ですよ？」
「何がよ」
「私、一通りすだちの歌の歌詞は知ってると思いますから」
「...え？何で。聴かせたコト、無いでしょ？」

先生が不可解そうに眉毛を寄せた。

「前に私、相葉くんにメアド教えたじゃないですか」
「うん。そうみたいだね」
「何で教えたのかって、先生の事を訊く為だったって言ったでしょ？」
「うん。違うの？」
「あれね、すだちの動画を送って貰ったんです」

寄せられた眉毛の下にある目が、クリンと開いた。

「はぁ！？動画...相葉、何を勝手に...」
「だから、歌詞はしってるんだけど聴き取れない部分もあったからちゃんと読みたいんです」
「なぁ、ちなみにその動画ってもう...」
「え？まだスマホの中にありますよ！永久保存です！」
「...マジかよー...」

何かを諦めたように、先生はノートを私に差し出して

「アイツ、今度会ったら...」

ブツブツ言ってるから「私がお願いしたんだから、相葉くんは悪くありません！」って笑いながら、それを受け取った。

表紙を開くと、懐かしい先生の字。

板書で何度も見ていたあの字。

生徒手帳に書いて貰った、あの字。

「先生」
「何よ」

ちょっとぶっきら棒。

「これ、...実体験？」

この歌詞知ってる。

サビで『君が好き』って、大野先生の透き通った声が響くの。

甘くて、切ない恋の歌。

「まぁ、実体験」
「......」
「でも学生の頃の思い出」
「え...？」
「ここ何年も、恋愛日照りだったからね。オレ」

「久々の恋だわ」と

先生が俯き微笑む。