梅雨の終わりに愛を唄う【壱】 (ページ13)

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拾弐ページ13

『ここが…時透邸』

陰に連れられて来たのは、時透様の御屋敷、時透邸。
とても広く、鬼殺隊本部の半分くらいの大きさだった。庭もあり
蝶が優雅に飛んでいる。

陰「霞柱様、甲・A様をお連れ致しました」

無一郎「あぁ、入っていいよ」

襖がｽｯ…と開くと、時透様が顔を出された。どうやら刀の手入れをしていたらしい。
私達は向き合うように座る。

無一郎「…あの後、御館様と話し合ったんだ…Aのこれからの事を…」

『……』

無一郎「そこでAの意見を聞きたいんだ…今回の件で分かったでしょ、自分が後先考えず無理しちゃう事」

『……はい…私は…私は…』

一瞬頭を過ぎったのは、鬼殺隊の脱退。
だけど、私には上弦への復讐が残ってる。こんなところで怯んで
はいられない。

『…梅雨の呼吸を極め続けます』

無一郎「…A」

ぼんやりしていた時透様の視線が鋭くなる。

無一郎「梅雨柱様から聞いたよ。梅雨の呼吸の使い手は18歳までした生きられないって…Aには長生きして欲しいってさ。でもなんで短命の方を選ぶの…馬鹿なのかな」

『……私は、短命で良いんです…もう…家族も誰も居ないから…頼れる人がいないから、今だって…兄も両親もいない今だって、辛くて辛くて仕方ないんです』

ずっと、溜め込んで来た気持ち。

『だから、早く兄達のところに行きたいんです…………痛っ!!』

突然、左の頬をつねられた。

無一郎「僕の前で悲しい顔しないで…ムカつく」

『ふ、ふひはへぇん(すみません)』

ヒリヒリする……。

無一郎「頼りが居ないって言ってたけど…僕は？」

『ぇ、』

無一郎「友達でしょ、僕がいるじゃん」

『ｯ……』

ザアッ……

空いた襖の隙間から風が吹き、髪をなびかせた。
ずっと、1人だと思っていた。ずっと、1人で抱え込んで来た。

『ふぇ…泣』

無一郎「え"、」

『ｸﾞｽｯ…ごめんなさい!…嬉しくって…泣』

ふわっと、優しい手が頭に置かれた。

あぁ、この人はこんなにも

優しかったのか。