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13話 ページ13

「――とはいえ、いかに真実らしく粉飾をこらしたにせよ、目の肥えた人、殊にもこの作品を読んで興味を覚えたほどの人にしてみれば、その相違には歴然たるものがあるにちがいないのである。」

痛む頭に苛立ちを覚えながら先程見た文字の羅列を思い出し、口に出す。
最後の一文を言い終えると、私の目の前でぱたんと閉じた本を片手に座る老人がくつくつと喉で笑った。

「ああ、成功だ。やはり私の計算は間違っていなかった! ふふ、ははははは!!」

狂ったように笑いながら荒く椅子から立ち上がり、手にしていた本を投げ捨て私の肩を掴む。

「やっと、やっと手に入れたぞ! お前は万能の神だ! 神になったのだ!!」

ただし劣化版のね。と胸の内でぼやくが、言葉にしないのではそれは意味を成さないし、言葉にしたところでその先に待つのは苦痛でしかない。
誰にも気づかれないようにため息をついた。

実験が終わった。つまりはそういうことなんだろう。終わってみると随分呆気ないものだった。
こんなもの、なぜ手に入れたいのだろうか。
まあいい、知ったところで私の為になるものではない。

今日はもう戻れという言葉に従って部屋へと足を進める。
朝から何も食べてないうえに、長針はもうすぐ日付を跨ごうとしていた。
空腹と苛立ちで胃がキリキリと痛んだ。一日中あの部屋にいたのか。

実験を始めて何日目だ? 今日は何月何日?
駄目だ。疑問しか頭を巡らない。気分が悪い。もう眠りたい。

ずるずると重い足に鞭を打ちながら冷えた暗い廊下をひたすらに進む。
ふらふらと覚束ない足取りでたどりついた部屋の中には見覚えのある少年が一人、佇んでいた。

「……骸?」

少年の名を呼ぶと、小さく肩を揺らし振り返った。今にも泣きそうな顔をして。

「し、おん? 今までどこに……っ」

震えた声で、まるで腫れ物を触るかのように、ゆっくりと肩に手を置く。先程掴まれた場所が少し痛んだけれど、顔には出なかった。

「実験が終わったんだよ」

それだけを口にする。彼ならそれだけでも意味が伝わるだろう。
彼を見ると、やはり目を見開いて、顔を強張らせていた。

「大丈夫だから」

眠気が押し寄せてくる。だんだんと力が抜けていく。

「紫苑? ……紫苑!」

ああ、彼が呼んでいる。大丈夫だと、返さなければ。
死ぬわけではないと、ただ少し眠るだけだと、伝えなくては――。

そこで私は意識を手放した。

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- いえいえー当然の事を言っただけですー喜んで貰えて光栄ですよー それと、音域を広げる練習、頑張ってくださいー諦めずに頑張れば報われるはずですからねー ふむ、来月ですかーコトハ@白亜さんの小説は奥が深いのでーワクワクしますねー楽しみにしてますー (2015年8月21日 12時) (レス) id: 7c8a29757a (このIDを非表示/違反報告)
コトハ@白亜(プロフ) - 杏さん» 返信ありがとうございます。そう言っていただけると作ってよかったと思えます…ありがとうございます。なるほど、その方法がありましたね…早速試してみようと思います。アドバイスありがとうございます。せめて再来月までに公開できるよう頑張ります…! (2015年8月20日 18時) (レス) id: 5c05607229 (このIDを非表示/違反報告)
- 大丈夫ですー、ミーも返信遅くなってすみませんー 気に入った作品にコメントするなんて当たり前じゃあないですかー 音域が狭い、ですかーピアノで音を取ると結構出やすいですよーあとは、歌いたい曲を練習してー音域を広げるのもいいと思いますー 続編、待ってまーす (2015年8月20日 15時) (レス) id: 7c8a29757a (このIDを非表示/違反報告)
コトハ@白亜(プロフ) - 杏さん» 返信ありがとうございます、遅くなってすみません!わわ、続編までコメントいただけるんですか…ありがとうございます!嬉しいです!音痴というか出せる音域が狭いんですよね…なので歌が上手い人羨ましいのです… (2015年8月19日 0時) (レス) id: 5c05607229 (このIDを非表示/違反報告)
- はいー、頑張って下さいー続編出来るまで此処を見に来たりしましょうかねー 一番に作品を見に行ってコメントしたいですー…音痴?そんなのカラオケが悪いんですー声の質は様々じゃないですかー (2015年8月17日 11時) (レス) id: 81089b7519 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:コトハ | 作者ホームページ:   
作成日時:2014年6月13日 17時

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