イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ36)

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36.大学生。ページ36

桜が咲く頃、私は花粉症デビューして

痒い目をシパシパさせながら、大学生になった。

高校とは比べ物にならない程に広いキャンパスは、迷子になるんではなかろうか...って不安になったけど

自分の学部以外にはほぼ足を踏み入れないから、学食やコンビニ、カフェの場所さえ覚えれば問題無かった。

レンガを貼られた外壁の校舎は、何だか少しだけ私を大人の気分にしてくれるから、好き。

大学で初めて出来た友達は、お人形さんみたいな顔立ちのいろはちゃん。

いろは、って名前が素敵だなってそれを本人に伝えたら

「父親がイギリス人なんだけど、日本語が好きでこの名前を付けたって言ってた」

って。

『日本語が好き』

その言葉に、普段は蓋をしてる想いが熱を持つ。

同時に、このキャンパスの景色を先生も見てたんだ...って事を思い出して、苦しくなる。

ハーフのいろはちゃんは、やっぱり大学内でも目立ってて

そんな彼女の隣に居る私も、おこぼれを貰うようにたくさん友達が出来た。

高校生の頃には経験できなかった楽しい遊びも覚えて

朝帰りをしてはお母さんに「何の為に大学行ってんの！？」って怒られて

「やるべき事はちゃんとやってる！」って言い返して、それが嘘にはならないように試験前は真面目に勉強した。
試験の結果が良いとお母さんは、夕食の後に私の好きなケーキ屋のフルーツタルトをドヤ顔で出して来る。

少し遅めに来た娘の反抗期を、お母さんはちょっとだけ楽しんでるようにも見えた。

いろはちゃんが男子に人気あるから、合コンにもよく誘われた。

もしかすると、本当に素敵な出会いとかあるのかもしれないって何度か参加した。

大学生男子は男子高校生には無い大人びたお洒落な雰囲気があって楽しい事もたくさん知ってるし

先生が言ってた通り、『イイオトコ』だと思える男子にも何人か出会った。

だけど、先生以上に『イイオトコ』なんて私には見付けられない。

同じ授業をとってて自然と仲良くなって、放課後2人で試験勉強したりしてた男の子に告白された事もあった。

だけど、先生以上に一緒に居たいと想える人なんて私には見付けられない。

一度きりの青春を、私は先生のせいで無駄にしちゃってる気もした。

全然彼氏を作ろうともしてない私に、いろはちゃんがコソッと訊いてきた事があった。

「もしかして、Aちゃんって心に決めてる好きな人とか...居る？」

結局私は、先生しか好きじゃない。

好きになれないんだ。