イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ21)

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21.わが心にも涙ふる。ページ21

雨音が強くなった。

窓を打ち付けてるような、激しい音。

「うわ...すっげぇ降って来た。お前、これ帰れる？」
「ビニール傘、潰れそうですね...」
「だよなー。もうちょっと、様子見した方が良いかもな」

まだ先生と一緒に居れる

それだけで、私の心は躍った。
どんどん雨が強くなるのが、嬉しかった。

顎に手を添えて窓を見てる先生の横顔が、やっぱり綺麗で泣きたくなる。

「親御さんに連絡するか？車あるなら迎えに来て貰った方が良くない？」

先生がそう言った時、窓の外が明るくなった。

え？と思ったと同時に、耳をつんざくような音。

その瞬間、周りが真っ暗になった。

「うわっ！？」
「......ひっ！！」

雷は、小さな頃から苦手だった。
雷が鳴ると、押し入れに入って布団を被ってた。

どんなに暑い日でもそうやって逃げるから、雷が遠ざかった時にはもう汗だくで、もちろん布団も汗だらけでお母さんによく笑いながら怒られてた。

ゴロゴロと、雷は鳴り続けてる。

「えー、校内に残っている教職員及び生徒の皆さん。先ほどの雷で停電が起こってます。電気が復旧するまで危ないので暫くその場で待機して下さい」

多分、教頭先生の声が放送で流れた。

「停電かよ...結城、大丈夫？」

怖くて何も言えなくって、頭を両腕で抱えフルフルと首を横に振る。

「怖い？」

コクコク、今度は縦に首を振る。

「ンフフッ、お前まだ子供だな」

優しい声だった。

笑い方も、喋り方も、きっと今までで一番優しかった気がする。

先生の手が、頭を抱え込んでた私の腕を掴んでそっと膝の上に降ろした。

電気の消えた部屋でボンヤリしか見えない先生の顔が、私の顔を覗き込む。

「ダイジョブ、ダイジョブ」

先生の左腕が、さっきまで私が自分で抱えてた頭を抱き寄せて

ポンポン、と撫でてくれた。

「...先生...」
「特別サービスな。いつも手伝ってくれてるから」
「......」
「生徒が怖がってるんだから安心させてやんのも、先生の役目だろ」

ポンポン、今度は赤ちゃんにやるように背中を軽く叩いてくれる。

だけど、さっき抱き寄せられた頭はそのまま先生の肩に乗っていて

先生のほっぺが、私の頭のてっぺんに引っ付いてて

雷が鳴るたびに、先生は笑いながら私の耳を塞いでくれた。

涙が出た。

もう、隠してるなんて無理だと思った。
隠せないって、思った。

先生の事が好きで好きで

私はもう、おかしくなりそうだった。何も考えられなかった。