イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ19)

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19.その場しのぎ。ページ19

「結城ー。悪いんだけど、後でちょっと来てくんない？」

帰りのホームルームが終わって、私を含めみんなが帰ろうと立ち上がってる中で先生がよく通る声で言う。

「あ...はい。職員室ですか？準備室ですか？」
「準備室」

短く答えた先生は、そのまま教室を出て行った。

はい、って頷いた私の周りに帰り支度を済ませたクラスメイトが近付いて来る。

「A、ホント先生にコキ使われてるよね」
「でもちょっと羨ましい、だって可愛いニノちゃんだよー！」
「『秘書』って言われてるよね！」

そんな風に言う仲の良い子達から、変に思われないように「単なる雑用係だよ」って笑うと彼女達も「だねー」って笑う。

「せっかくAも一緒にカラオケ行こうと思ったのにー」
「今度、ニノちゃんに『Aを働かせ過ぎないでね！』って文句言おうよ」
「アハハ！クレーム入れよう！」

私も彼女達と一緒になって笑ったけど

本当は、誰にもこのポジションを奪われたくないなんて思ってる。
お願いだから、いらない事は言わないでねって思ってる。

私って、汚い。
友達に本音も言わない。
どんなに仲が良くっても「二宮先生が好き」だなんて...本当の事、言えない。

前に「気になる子とか居ないの？」って食堂でしつこく言われて、先生の事を隠す為に咄嗟に「あの子が気になるかなー...」って一年生の男の子を指差してしまった事もあった。
理由は背が高くって茶色い綺麗な髪が目立ってたから、目に入って来た。それだけ。

なのに、彼女達が盛り上がっちゃって困ったのを覚えてる。

「相葉くん！？あの子はモテるよー！」
「あんまり学校来ないけどねー」
「レアだよね、レアキャラ」
「ちょっと女遊びが、って噂も聞くから遊ばれないようにね？」

私が指差してしまった相葉くんとやらが、どうやらヤンチャらしくって変な心配をされたっけ。

でも別に私が自分から「相葉くんがー」なんて話も当然しないから、最初こそ「一年の教室、行ってみる！？」とか張り切ってた彼女達もその内何も言わなくなった。

それが、夏休みに入るちょっと前の頃の話。

「じゃあ私、先生のトコ行って来るね」

カラオケに行くってゆー皆と別れて、私は一人準備室へ向かった。

一階の廊下を歩いてると、濡れてるアスファルトの匂いがした。

雨はまだ、降ってる。

サー...っと静かな雨音

私の上履きの足音

トントン、と準備室のドアをノックすると

「はい、どうぞ」

先生の声がした。