イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ13)

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13.暑い日。ページ13

夏休みに入る少し前の放課後。

すっかり忘れてた数学の課題を居残ってやり終えて、数学準備室に居る大野先生に提出して

国語科準備室の前を通りたくって、別に通らなくても良い廊下をわざと歩く。

廊下は空調なんて無くて、暑くて汗が背中を流れた。

半袖のセーラー服の上着の裾をちょっと摘まんで、お腹に風が入るように小さくパタパタする。

パタパタしながら、準備室の前に差し掛かった時

ドアが勢いよくガラガラって開いて

「ごめんなさい！失礼しました...っ！」

中から、私と同じように半袖のセーラー服を着た女の子が飛び出して来た。

ビックリした私は、思わず「うわっ！」って声を出してしまってその子がこっちを向く。

彼女の目は真っ赤に潤んで、頬には何本か涙の通った筋。

私が驚いた顔を隠せないで居たら、彼女はそのまま俯いて走って行った。

パタパタパタ...と駆けてく上履きの音が遠ざかる。

ふ、と準備室を見るとドアが開きっぱなしだ。

この中に、先生が居るのかは分からない。
国語科って言っても、現国もあれば古典だってある訳だし先生だって何人かずつ居る。
だからこの部屋は、二宮先生だけの物では無い。

実際、お手伝いしてる時だって他の先生が居る事はしょっちゅう。

そう言えば、ご褒美をくれるのは決まって私と二宮先生が二人っきりの時だったなと思う。

だけど今は何故だかきっと、二宮先生が一人で居るんだろうなと思った。

そして、何だか胸が苦しくなった。

ちょっと重く感じる足を前に出して、開きっぱなしのドアの前に立つと

ヒンヤリと空調がきいた風が私の脚と腕を撫でた。

その部屋の中は、逆光で一瞬、よく見えなかった。

いつものように自分の机の前で椅子に脚を組んで座ってる先生の、少し下を向いた横顔がシルエットになってる。

「先生...？」

声を掛けると、先生は顔を上げてこっちを見た。

「おぅ、結城。どした？」
「...入って良いですか？」
「何だよ、いつもそんな事訊かずにズカズカ入って来るくせに」

フハって笑った先生は、後頭部をガシガシって掻いて

「暑いなぁ...」って呟いた。

「廊下は暑いけど、この部屋は涼しいですよ？」
「あー...ドア、開きっぱなしだからかな」

先生の言葉を受けて、後ろ手にドアをガラガラと閉める。

「で？何か用ですかー？」

ちょっと首を傾げた先生に

「泣いてました...」

そう言うと

「主語を言え」って、呆れたように笑われた。