イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ30)

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30.夢では。ページ30

「辛かったら転がってろ」

先生が、振り返らずに言った。

「寝てて良いから」
「.....はい」

言われるまま、後部座席に身体を倒した。
顔の下に自分の腕を敷いて、目を閉じる。

辛いのは、身体じゃないよ。

辛いのは、身体よりも心。

「おやすみ」

バックミラーで私が寝転がったのを確認したのか、先生が呟いた。

その言葉を、私はこんな所で聴きたくなかった。

いつか見た夢では、先生の腕の中で囁いて貰えたのに。
いつか見た夢では、私は先生に釣り合う大人だったのに。

いっそ、寝れたらまた夢の世界に戻れるかもしれないのに

私はずっと先生の息遣いや咳払いを感じてしまって、眠る事なんて出来なかった。

その内、車が停まってうちのマンションに着いたんだな...と思う。

目を閉じたままでいると、ガチャ、パタン、とドアが開いてから閉まった音。
そしてすぐにガチャ、とさっきよりも近くでドアの開く音。

「結城、着いたぞ。起きられるか？」

その声にゆっくり目を開けると、後部座席に上半身を突っ込んで私の顔を見下ろしてる先生と目が合う。

先生は、フッと笑って小さく頷く。

「ちょっと頑張って家まで歩こうな。別に運んでやっても良いんだけどさすがにご近所の目が恥ずかしいだろ？」
「......はい...」

別に、ご近所の目なんて...って思ったけどそんなコト言えない。

私がノロノロと起き上がって、ちょっと乱れた髪や制服を直してる内に先生が私の鞄を持ってくれた。
そして、車から出た私の腰を支えてくれる。

ピッタリ引っ付いた身体の半分が、熱くて

もし、このまんま抱き着いたら先生はどうするんだろう...なんて、考えた。

「歩けそう？」
「...はい」
「ん。じゃ、後ひと踏ん張りな」

腰に回された先生の腕。

あぁ、もう少し頑張ってダイエットしてたら良かった。

「お前さ。ちゃんと飯、食ってんの？」
「...え？」
「何か、小枝みたいだぞ。カラダ」
「......小枝...」
「あ、すまん。セクハラだな、今の」

すまんすまん、って本気で申し訳無さそうな顔。

「...太ってます...小枝なんかじゃありません...」
「はぁ？最近の女子はどんだけ細くなったら満足なの？不健康だろ」
「...先生は......細い子が嫌いなんですか...？」

私の質問に、先生は答えなかった。

代わりに

「もっと食え」

そう言いながら、「お前んち、10階だよな？」ってエレベーターのボタンを押した。