イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ24)

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24.声を拾う。ページ24

出会った時からアナタは『先生』なんだもん。

好きになった時には『先生』だったんだもん。

『先生』以外に何て呼べば良いの？

だったら、私は最初からアナタに恋したらいけなかったの？

恋に恋してたんじゃない。

私はアナタに恋してたのに。

「ど...して、信じてくれないんですか...？」

先生が、窓辺からやっと動くと自分の机の引き出しから煙草と携帯灰皿を出した。

ここ、禁煙なのに...って言う余裕も無い私の前で先生は煙草を口に挟む。

「お前がまだ、子供だから」

煙草を挟んでるせいで、少し聴き取りにくいはずなのに

こんな聞きたくない言葉を、私の耳は律儀に全部拾って聴かせた。

先生の言葉なら全部聴きたいって思って、色んな雑音がある中でも先生の声だけは聴き取れるようになってた自分の耳を呪う。

「私っ...もう...」
「子供じゃないって、言えるか？」
「......」
「大人はそんなに泣かねぇよ」
「...っ」

悔しい。
泣きやみたいのに泣き止めない自分が悔しい。

椅子に座った先生が、煙たそうな表情で紫煙を吐き出す。

悔しい。
こんな時なのに、ドキドキしてしまう自分の胸が悔しい。

「...あ、結城」

先生が突然、何かを思い出したように険しい表情で私に顔を向けた。

「お前、東山行きたいってまさか...違うよな」
「......」
「オレの母校だから、じゃないよな」
「......」
「そんな理由だったら受験やめろ。他の受験生に失礼だ」

携帯灰皿に吸い殻を押し付けて、椅子のキャスターを滑らせて私の前までやって来る。

「オレ、そーゆーの好きじゃない」

鳶色の目に鋭く睨まれて、動けない。

「......違います。自惚れないで下さい」

必死で、負けないように先生を睨んだ。

「私は、東山で文学を学びたいだけです。先生の母校だったのは...偶然です」

涙は止まらないけど、せめてこれ以上弱い所を見せるのは嫌だ。

「そう。だったら、応援するよ。担任として」
「...ありがとうございます」
「つまらない事に頭使ってる暇あったら、一つでも多く英単語を覚えろ。史実を覚えろ。公式を覚えろ」
「......」
「それが、今のお前がするべき事だ」

唇を噛み締めた私に、先生は「さあ、もう帰れ」と先生らしい声を出した。

私は、ドアの前まで歩き立ち止まる。

「...先生」

涙はやっぱり止まらない。

「私の気持ちは苦しい程、本気でした。...失礼します、さようなら」

振り向かずそう言って、ドアを開け部屋を出た。