イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ17)

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17.そのお店。ページ17

私の成績では、確かに東山大学はレベルが高くて必死にならなきゃいけなかった。

先生に会えなくなるから嬉しくも無かった夏休みは、予備校の夏期講習でほぼ潰れた。

でも、頑張ってたら先生の後輩になれるんだって思ったらテキストを進めるのも楽しくて

恋の力って凄いなって、何度も実感した。

そんな勉強漬けの夏休み、予備校に一緒に通ってた友達と息抜きにって街で遊んでた時に

一度だけ偶然、先生を見掛けた。

一軒の店から出て来て、私達とは逆の方に歩いて行ったから声を掛ける事は出来なかったけど

学校とは違ってTシャツとスウェットパンツにハイカットのスニーカーを履いてキャップを被ってる先生は、いつもの数倍若く見えたし

なのに手には紙のブックカバーが掛かった何冊かの本を持っていてやけに知的な雰囲気がして、ギャップにクラクラした。

何のお店なんだろう...と、通り過ぎる時にチラ見するとウッディな内装のどうやら本屋さん。
うちに帰って調べると、最近できたお店で古民家をリノベーションしてあるらしい。

『本屋+CAFEで過ごす時間』って、そのお店のHPのTOPに書かれてる。

気になって、夏期講習の帰りに一人で行ってみた。

高い天井のお店に本棚が並んでいて、その奥からコーヒーの香り。
思わず、スーっと息を吸い込んだ。

先生、ここでコーヒー飲みながら本を読むのかな...
どんな本を読んだんだろう。
どのコーヒーが好きなんだろう。ブラック？それとも意外と、甘いカフェオレ？

そんな事を考えるだけで幸せになるんだから。

先生の通ってた大学に行けたら、「先生もこの教室使ったのかな？」とか「先生は食堂のどのメニューが好きだったのかな？」なんて考えてきっと毎日幸せだ。

「絶対頑張る...」

決意が強くなる。

動機は不純かもしれないけど。
でも頑張るんだ。

「あ、文庫になってる！」

ふと話題作が並ぶ棚を見ると東山大学の先輩、建前の動機に使わせて貰った桜井佳乃先生の本が文庫になってた。
読みたかったのにお金が無くて1400円出せないー...って思ってたけど、文庫だったら600円。

迷わず手に取ってレジに持って行く。

店員さんが、紙のブックカバーを付けてくれる。

深い緑色のそれは、あの日偶然見た先生が持ってた本に掛かっていた物と同じ。

先生とお揃いだ...！

勝手に口元が緩んでしまって、店員さんに「本がお好きなんですね、嬉しそう」って言われて

何か恥ずかしくって、曖昧に笑うしか出来なかった。