PRESTO！2nd【ars M.A】 (ページ27)

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62.キモチのオワリ。ページ27

接客が長引いてしまって予定してたより10分遅れて、休憩を取った。

「ちょっと、出て来るね。隣にいるから、何かあったら呼びに来て」

俺はスタッフに一声掛けてから、隣のマスターの店に向かう。

扉を開ける前に深呼吸して落ち着こうとしてたら、中からマスターが出て来た。

「おぉ、相葉くん。いらっしゃい」
「うん、いらっしゃいました...あの、待ち合わせなんだけどさ」
「あ、あのでっかい兄ちゃんかな？」
「あ、うん、多分そう」

マスターが扉を押さえてくれて、店内に入ると奥の席に香取さんは居た。

俯いて文庫本を読む姿が、本当にモデルみたいだ。

「相葉くんも相当な男前だと思うけど、あの兄ちゃんも凄いなぁ！」
「...凄いよね...」
「類は友を呼ぶのかねぇ」

アハハッ！と笑ったマスターは、そのまま厨房に入って行った。

...全然、友じゃないんだけど。

どっちかと言えば、きっと、一番会いたくない人。

「お待たせしました...」

俺が声を掛けると、香取さんは静かに顔を上げた。

「ごめんね、仕事中に。座ってよ」
「はい...」

香取さんの対面に座って、何と無く顔を見ることが出来なくて思わずマスターを呼ぶ。

「マスター！オーダーお願い！」
「はいはい」

厨房から出て来たマスターに、コーヒーを注文して香取さんのコーヒーカップが空になってるのに気付いてお代わりも頼む。

マスターはまた、厨房に戻って仕方無く俺は香取さんの目を見た。

「あの...お話って...」
「うん、そうだね」

香取さんは、緩く微笑む。

「こないだ、Aんちに来てくれたのにごめんね」
「いえ...僕こそ突然行ってしまって...すいませんでした」

ペコッと頭を下げて、少しだけ唇を噛む。

「単刀直入に訊いても良いかな？」
「...はい、どうぞ...」
「相葉くんはさぁ...」

何でも訊いてよ、覚悟は出来てる。
何でも言ってよ、覚悟は出来てる。

「Aの事が好きなの？」

香取さんの大きな目が、じっと俺を見る。

「はい、好きです」

好き、って気持ちが良いのか悪いのか分かんない。
...きっと悪い。

失恋してもまだ、好きだって思ってるのが正解なのかどうか、分かんない。
...きっと不正解。

「けど...大丈夫です、ちゃんと諦めますから。もう、突然家に押し掛けたりしません」

それを、俺に忠告しに来たんだよね？

だったらもう、安心してよ。

俺は、心配そうな顔してマスターが運んで来てくれたコーヒーを一口飲んだ。