智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ7)

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●声【N】ページ7

カズは今日もゲームに夢中。

ソファに寝転んで本を読んでる私の足元で、彼も腹這いになってテレビ画面を見てる。
その指先は信じられない位の速さでパタパタ動いてる。

「口開いてるよー」

そう言うと、アムっと口を閉じる。
でもその数秒後には、またポカンと開いてる。

このソファは私の物。
そのテレビはカズの物。
あの冷蔵庫は私の物だし、あっちのチェストはカズの物。

私と彼は数ヶ月前から同棲を始めた。
節約の為に、家具や家電はお互いの物を持ち寄った。

同棲を始めた理由は、ほとんどどっちかの家で過ごしてるのに家賃を二軒分払うのはもったいないから。
カズからの提案。
でも、そこから結婚話には発展しなかった。

「ねぇ、カズ」
「んー？」
「本、読み終わった」
「面白かった？」
「うん」
「良かったね」

あは、って笑って彼はまだまだゲームに夢中。

「暇なんだけどなー」
「じゃあAもする？」
「それ、一緒に出来ないヤツじゃん」

彼がしてるのは完全に一人用のRPG。

「んー...だったら格闘に変えよっか」
「そこまでしてゲームしたいの？」
「したいの」

振り返ったカズが子供みたいにニーって笑ったもんだから、不覚にも可愛い！とか思って結局一緒にゲームするはめになる。
いつものパターン。

カズがソフトを入れ替えてる間に、コーヒーを飲む為にキッチンでヤカンを火にかけた。

「あっ！せっかくだから勝負しよ！」
「オレと戦う気？」
「うん。負けたら勝った方の言う事聞くってのはどう？」
「負ける気しねぇわ」

クフフ、と肩を上げて笑ってる。

「じゃあ、私が勝ったら一緒にコンビニ行ってね」
「えー、夜中だよ？寒いじゃん」
「夜中にコンビニ行くの好きなの！コーヒーのお供になるお菓子買いたいし」
「はいはい。どうせ負けないけどねー」

コーヒーのお供は無しだなー！なんて言ってるカズの背中を、パシンと叩く。

でもやっぱりゲーマーに勝とうとしたのは無謀だった。
全然手加減してくれないカズにボッコボコにやられてしまう、私の操るキャラクター。

「ほらほら、負けちゃうよ？」
「うぅぅー」
「ほらほら、どうした？」
「ムカつくぅぅぅ！」

もう負けちゃうよー！って瞬間に、キッチンからピーーーー！とけたたましい音が響いた。

「カズッ！お湯沸いた！！」
「えっ！？」
「火、止めて来て！」
「じゃあコレ一旦停止してよ！」
「やだ！ほら、早く！火事になっちゃうー！」
「はぁぁ！？」