智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ37)

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●非理想形【O】ページ37

出逢い方が、理想形では無かった。

理想形って言うのは、会社が同じだったとか、同窓会で再会した、とか。
友達の紹介とかも、ありかもしれない。
それなら、人に言える出逢い方だから。

私と彼の出逢いは、あっちはどう思ってるか分かんないけど私はちょっと人に言いにくい出逢い方だった。

所謂、ナンパ。

違うの！いつもナンパについてってる訳じゃ無くて！
その時はたまたま！たまたま友達にドタキャンされて、でもせっかく出て来たのに帰るのもなぁ...って思ってたら、目の前に彼が居た。

「お姉さん、今ドタキャンされた？」

どうやら私が電話でやり取りしてたのを聞いてたらしく、彼は首を傾げながら訊いて来た。

「あー...ハハッ、そうなんです」
「おれも」
「え？」
「おれも、さっきドタキャンされた」

アハーって笑った彼につられて、私も笑ってしまって

「フラれたもん同士、飲みに行かない？」

そんな彼の言葉に、ついつい「そうですねー」なんて言っちゃって。

でも、本当に飲みに行っただけだった。
彼は本当に暇だっただけなんだなーと思った。

話す内容も、全然色っぽくない。
仕事の話とか、趣味の話とか、昨日観たテレビの話とか。

その別れ際に「名前！」と彼に言われて、お互いを「お兄さん」「お姉さん」って呼んでて名前を聞いてない事に気付いた。

「あ、アハハッ！申し遅れました。五十嵐Aです」
「ふふっ、おれは大野智」

さんざん飲んだのに、やっと名前を知って。
何だこれ、って思ってると彼がスマホを出した。

「嫌じゃ無かったら、連絡先教えて欲しい」
「あ...」
「無理...？」

上目遣いに言われて、ちょっとキュンとしたのを思い出す。
彼は、何と言うか、捨て猫みたいで何だか母性本能を擽るタイプなんだ。

「ううん、大丈夫」
「ほんと？あは、良かったぁ」

笑った顔が、やっぱり子猫みたいだった。
後々聞いたら、私より年上だし思ってたより大人だしで驚いたけど。

それから私達は、時々会って食事をするようになった。
飲みに行って、どうでも良い話をする。

彼は私を「Aっち」って呼んで、私は彼を「さとっさん」って呼んで。

半年くらいそんな関係が続いた一ヶ月前。

「おれ、もう『さとっさん』って呼ばれたくない」

彼が突然、そんな事を言った。

「友達だと思えなくなった。もう、Aっちって呼びたくもない」
「え...？」

絶縁宣言だと思ったんだけど

「好き！」

彼は、怒ったように言った。