智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ49)

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照れ臭くて俯くと

「相葉せんせー！」
「相葉先生、いたー！」

可愛い声がして、雅紀くんが私の頭に手を乗せたまま「お？どしたの？」と返事をした。

私もそっちを見ると、学生の女の子が数名。
流行りの服に身を包んで、何だか良い匂い。

雅紀くん、毎日こんな子達に囲まれてるのか...

胸が、チクチクする。

「あ。この子、俺の奥さんのAちゃん」
「えっ...？あっ、初めまして...！相葉の妻です！」

まさか紹介されるとは思ってなかったから慌てて頭を下げた。
...どうしよう、どんな顔してるのが正解なんだろう...。

「Aさん！ホワイトデー、ありがとうございました！」
「すっごく可愛かったですー！」

え？と思って顔を上げると、女の子達が私を見てニコニコしてる。

「でしょー？俺のAちゃん、センス抜群なんだから！」

「また出たー！」「相葉先生の奥様自慢！」なんて、女の子達が笑った。

それから彼女達はゼミの事を雅紀くんと話して。
楽しそうに「お邪魔しましたー！」って言いながら、去っていく。

「賑やかでしょ」
「...みんな可愛いね」
「ん？もしかしてヤキモチ？」
「えっ！？いや...えっ...」

ムフッ、って雅紀くんが笑う。
笑って、また私の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。

「でも、そのヤキモチで使うエネルギーは勿体無いよ」
「.....」
「結婚式で、誓ったでしょ？」
「誓い...」
「病める時も健やかなる時も、愛する事を誓います」

片手を顔の横に挙げて、少し真剣な表情。

「言霊っていうでしょ、言葉は魂を持つの」
「...うん」
「しかも神様の前で誓約したんだよ？」
「.....」
「俺はね、もう一生Aちゃん以外に恋する事は無いよ」

胸の奥の方から、甘い蜜がどんどん溢れて来るみたい。
全身が甘さに包まれる。

「ねぇ、お弁当一緒に食べよ！」

雅紀くんが私の手を引いて歩き出す。
学生達が冷やかして来るのを、彼は「良いでしょー」って返してる。
恥ずかしいんだけど嬉しくて、嬉しいんだけど恥ずかしくて。

桜の木の下にあるベンチに並んで座り、雅紀くんは膝にお弁当箱を置いて蓋を開けた。

「唐揚げ！」
「そうだよ、だから届けに来たの」
「ありがとー！ってチューしたいけど我慢する」
「もー何言ってるの！」

肩をパコっと叩くと、その肩を竦める。

唐揚げを頬張った雅紀くんの上に

隣に座る私の上に

桜の花びらが降る。

彼が桜を見上げて、アハ、って笑った。

・・・・・END・・・・・