かつて死んだ彼女の名前【鬼滅の刃】

第二話 水柱 壱 ページ5

軒下に座り少女から紅茶とこの時代には珍しいプリンが出された。

物珍しそうに冨岡の皿にのったプリンを何度も揺らす。

その光景がおかしくてつい笑ってしまう。

それに冨岡は声には出さなかったが、驚いた表情をした。


『私が笑うのがそんなに驚きましたか?』


嫌味...皮肉めいたことを言うと慌てて否定する。
それから何か言おうと悩んでいた。


｢すまない。お面を外してほしい｣


『嫌です』


即答で断られた。

彼女が他人...しかも鬼殺隊の中でも嫌っている(無関心かもしれない)柱に素顔を晒すなど絶対にない。

しかも唐突に言われて余計に感じ悪い。


『あなた...まさかそれを言うために来たんですか?』


｢違う。....外してほしい｣


違うと言うのに外してほしいと再度懇願する彼にさすがにいつも怒らない彼女もブチ切れた。

何も言わずに彼を押し出し勢いよく扉を閉めて鍵をかけた。


｢四月一日さん...だ、大丈夫ですか?｣


恐る恐る黒い猫面の女が聞く。

｢大丈夫｣ですと彼女は言うが、明らかお面を被ってても怒りが伝わってきた。


次の日。冨岡はなぜか鮭大根を鍋で持ってきて謝罪した。

訳が分からないので、...というよりそもそも柱とはあまり関わりたくはないので、そのまま扉を閉めた。

次の日も。その次の日も彼は同じ方法で謝りに来た。

さすがに何度も来ることで葬儀屋の子どもたちが不気味がるのと、誠意が少し伝わったので屋敷に入れた。

入るやいなや鍋を渡して深く頭を下げた。


｢すまなかった｣


『....もういいですよ。怒ってませんし』


その言葉に｢本当か?｣と疑問の顔を向けられる。

彼はどうやらよくも悪くも顔に出やすいタイプらしい。


(いつもは死んだ魚のような顔してらっしゃるのに)


彼は再び鍋を渡す。お詫びらしい。


｢....無理に外してほしいと言ったことを申し訳なく思っている。だが、やっぱり俺は正面からお前と...葬儀屋とわかり合いたい｣


『やっぱり?ですか』


そんなこと1度も聞いた事ない。
もしかして彼は思ったことを全部口に出さないからこのような入れ違いになったのか。

ならば話す時に｢すまない｣と言ったのにも合点がいく。

思ったより嫌な人ではなくて力が抜けた。
それと共になぜかおかしく感じられた。


｢?｣


『ごめんなさい。別に面白い訳じゃないんだけどね.....あなたが悪い人じゃなくて安心したの』


そう言うと彼はまた｢心外だ｣と言う代わりに顔を顰めた。

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