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あのあと、行き場のない気持ちを抑えながら仕事をし、レコーディングが終わったタイミングでもう一度控え室の方に向かうと、
「ニカ、昼見たやつ、渉には内緒にしといてね」
「えー、また?まぁ別にいいんだけどさあ…」
なんてニカに口封じをしている藤ヶ谷の姿があった。
冷たい目で俺の方を一瞬ちらっと見て、何事も無かったかのように視線を戻すその姿は、お前には関係ないなんて遠回しに言われてるようで、ただただ苦しかった。
どうせ俺が横尾さんや宮田に伝えることがないって、分かりきっていて、だからこそ利用されているかのようで。
新曲のプロモーションとか、MV撮影とか、話し合うことは莫大なのにいくら俺が話を振っても目線も合わない、返事も適当、そんな藤ヶ谷にはもう慣れた。
初めこそ、俺も、周りも戸惑いを隠せずにいたけど今ではそれが普通だと言わんばかりに、誰も気にせずに淡々と話し合いが続けられる。
立場は違えど、良い作品を作りたいという気持ちだけが俺と藤ヶ谷、もっと言えばここにいる誰もが持ち合わせている唯一のものだった。
長時間に及ぶ話し合いも終え、場の空気が一気に和むと、
「あーーもうお腹空いた。ニカ、暇?暇ならご飯行こうよ」
「今から?いいけど千賀太るよ?」
なんてゲラゲラ笑いながらからかい合う二階堂と千賀が、宮田と横尾さんにも声をかけていて、結局2人が玉と藤ヶ谷にも声をかける。
「ミツー、ミツは?飯行く?」
「あー、俺まだ仕事残ってるからパスで。」
「え!?まだ仕事あるの?久しぶりに7人でご飯行けると思ったのに。」
「ごめんな。また今度誘って。」
律儀に声をかけてくれた玉と千賀に断って、1人先に部屋を後にする。
本当は今日中に終わらせる仕事なんてないけど、俺がいても藤ヶ谷の機嫌が悪くなるだけだってことは、今までの経験から簡単に予測できることで。
何が悪いか、これっぽっちも分かんねぇけど、アイツらが楽しいなら俺居なくてもいいや、そう思ってしまう回数は知らず知らずのうちに増えてたんだ。
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作者名:mr | 作成日時:2021年5月25日 18時