55話 ページ23
一通り拭き終わったところで、Aはソファから立ち上がる。靴はすぐそばに置いてあったので、探す必要はなかった。
ひとまず、ここがどこなのかをはっきりさせることが先決だ。
そう決意し、付近を物色しようとしたとき、サイドテーブルにメモがあるのに気がついた。
『仮眠室に運ばせていただきました。念のため医務室に行かれた方が良いかと』
端正な字だった。きっと、あの案内してくれた樋口、とかいう人が書いたのだろう。このメモを信じるならば、ここは仮眠室ということになる。
なんとなく、樋口は優しい人なのだろうなと思った。タオルを置いてくれたのは彼女だろう。けれどその優しさは、彼女が身を置く世界に見合うものではないはずだった。マフィアは残酷な世界である。昨日まで友人だった人が、いきなり敵になることもある。時には何もしていない子供ですら殺さなければいけない。
(やっていけるんだろうか)
それは彼女次第だろう。
優しすぎるマフィアの人間、というとAが思い出すのはただ一人だった。優しすぎるというか、マフィアに似合わなかったというか。どちらにせよ異端だったのは間違いない。
彼女も同じことにならなければいいが、それは誰にも保証できない。
物思いに沈んでいると、扉をノックする音が聞こえた。どうぞ、と振り返ると、サングラスをかけた黒服の男が入ってきた。
「お目覚めでしょうか」
「ええ。すみません、ご迷惑をおかけしてしまって」
「いえ、お構いなく」
樋口に命令されて、外でずっとAが起きるのを待っていたらしい。どうやらもう既に正午を過ぎているらしく、どんだけ寝ていたんだとAは呆然とした。
「潜入捜査からのお帰りと伺っております。情報室に行かれますか？ それとも先に上へ？」
情報室に行くのは資料をまとめてから自身の上司へ報告、上へというのは直ぐに上司の元へ報告、という意味だ。どちらも丁寧にお断りしたいところなのだが、ここで断るのは怪しまれるだろう。適当にどちらかを答えて、さっさと太宰のところへ行った方がいい。
「ああ……そうですね、では情報室に行きます」
「それならばご案内します。どうぞ」
さっさと行くのは不可能だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 209人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！！ (2021年5月22日 17時) (
レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - わー！！！！！更新されている……めちゃめちゃ嬉しい、、、、、これからも応援しています！！！ (2020年4月30日 22時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
こよひ(プロフ) - りか（かりんとう）さん» 遅くなってしまって申し訳ありません。お読みいただき本当にありがとうございます。私事なのですが、来年受験のためしばらく更新をするのは厳しいかもしれません。気長にお待ちいただければ幸いです。 (2020年1月21日 15時) (レス) id: 38c890fd29 (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - とても面白いです！！続きがとても楽しみです。更新まってます……！！ (2020年1月2日 23時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こよひ | 作成日時：2019年5月2日 23時
