53話 ページ21
見えない泥のなかにでもいるような気分だった。
部屋中に散らばった肉片と、どす黒い色をした赤い血溜り。私の頬にも何か柔らかいものがこびりついていて、頭の奥の方でそれが肉片なのだろうなとぼんやり考える。膝を地べたにつけて座り込んでいるから、そちらは血でべとべとになっていた。
部屋には私以外にも人がいる。武装をした男たちで、手には全員機関銃を持っている。彼らにもやはり血肉はしっかりとついていた。当然だろう、彼らが、その肉片と化した人物を撃ったのだから。それに、私よりも彼らの方が、その人物に近かった。私のところまで飛んできているのだから、彼らが汚れないはずがない。
男たちは何度か言葉を交わした後、ゆっくりと此方と目をあわせた。私はぼうっとしたまま、彼らを見返した。男たちの中の一人が、私と目線をあわせるようにしゃがみこむ。
「君は、誰だい」
何を言っているんだろう。
そんなの、わかりきっているではないか。
「……ここの子供かい？」
私は目を細めた。この男が意図していることが分からなかった。――否、どう答えるのが正解なのかが分からなかった。
だから私は、無言を貫いた。男と視線が絡み合い、じっと互いを見つめあう。にらめっこなら慣れている。母さんと何度もやった。何度も負けてしまったけれど。
見つめあうこと数十秒。どうやら先に折れたのは男の方だったようだった。男は首をふると、後ろへ目をやった。何だ、まだ相手がいるのか。今度はどんな相手だろうかとつられて顔をあげると、目の前に黒い穴が見えた。冷たい冷気が頬に当たって、誰かが窓を開けたのだなと思った。カチャ、とその黒い穴から音がした。
一体何故それが、トリガーとなったのかは分からない。世の中、小説よりも奇妙なことで溢れている。そこにいた者にとっては、悪夢でしかなかっただろう。だが、私にとってそれは、まさに天からの救いのようだった。
私はたかが外れたように叫んでいた。
「お前らを、殺してやる！」
瞬間、目の前が白い稲妻で埋め尽くされ、真上で何かが爆発した。雷が落ちたのだ。普段は怯えていたその音が、不思議と今は心地いい。
辺りは炎に包まれた。雷が落ちるのであれば雨雲がいるはずなのに、その日は不思議と雲ひとつない美しい夜だった。火消の水は降らぬまま、炎は踊るように舞い上がる。そして、威力そのままに、その場にいたほぼ全員を焼き付くした。
まだ10にも満たぬ私を残して。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 210人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！！ (2021年5月22日 17時) (
レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - わー！！！！！更新されている……めちゃめちゃ嬉しい、、、、、これからも応援しています！！！ (2020年4月30日 22時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
こよひ(プロフ) - りか（かりんとう）さん» 遅くなってしまって申し訳ありません。お読みいただき本当にありがとうございます。私事なのですが、来年受験のためしばらく更新をするのは厳しいかもしれません。気長にお待ちいただければ幸いです。 (2020年1月21日 15時) (レス) id: 38c890fd29 (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - とても面白いです！！続きがとても楽しみです。更新まってます……！！ (2020年1月2日 23時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こよひ | 作成日時：2019年5月2日 23時
