58話 ページ26
太宰の顔を見るなり、Aは右手で拳を作るとそれを掲げながら叫んだ。
「我が治ぬし、かくまで我を欺きたまひしか！」
「うわあそれここで云っちゃう…？」
知りませんよそんなこと、と毒づきながら、Aは勢いそのままに太宰の懐へ飛び込んだ。本当なら一発殴ってやりたかったが、頭痛がそろそろ限界なのでなんとかそれを我慢する。先ほどのように気を失っては堪らない。複雑そうな太宰の顔は見えなかったことにする。痛みから早く解放されたくて、拳を作っていた右手を広げると鎖に吊り下げられた太宰の左手を荒々しく引っ掴んだ。
太宰に触れた瞬間、ぼんやりと周囲が光る。彼の異能が発動したのだ。無効化の異能が制御するのは、何も異能の暴走だけではない。異能力をもつ者であるが故に感じすぎてしまうものから、身を守るシェルターの役割も果たしてくれる。Aの場合、これが電気だった。
頭痛がゆっくりと引いていくのと同時に、Aは全身の力が抜けていくのを感じた。座り込みたい衝動に駈られたものの、ここで太宰の手を離してはまた痛みが襲ってくるだけである。あまりやりたくはないが、今はこれしか妥協案がない。何より、A自身がなりふり構っていられないくらいには疲弊しきっている。仕方なく、右手は太宰の手を掴んだまま、太宰の胸元に体重を預ける。後ろの壁とAに挟まれ、多少は苦しかったのだろう。頭上からぐえ、といささか情けない声が聞こえた。
少しの沈黙の後、また頭上から声が降ってきた。
「こういうプレイの方が好み？」
「今はほっといてください」
「他の娘が見たらどうなるだろうねえ」
何を言い出すのかと思えば、ろくでもないことだった。確かに、世の女性たちがこの在り様を見れば烈火のごとく怒るだろう。壁に両手を拘束されている美男と、男の片手を握りしめながら全身を男の胸元に預ける女。Aも絶世の美女だったのならまだ何も言われなかったかもしれないが、生憎Aはその辺の石ころの顔立ちだ。太宰の言い方は己の顔の良さを踏まえた上での発言だったが、それはどうしようもない事実なので否定のしようがない。その顔で様々な女を貶めているのはいただけないけれど。
「その怒った女の子に同じ体勢をやってもらってはいかがですか」
「うーん、やられたことがあるから却下で」
痛いしすぐほどけちゃうんだよね、と太宰は喉を鳴らした。なるほど、確かに拘束具ぐらい太宰がほどくのはお手のものだろう。
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麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！！ (2021年5月22日 17時) (
レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - わー！！！！！更新されている……めちゃめちゃ嬉しい、、、、、これからも応援しています！！！ (2020年4月30日 22時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
こよひ(プロフ) - りか（かりんとう）さん» 遅くなってしまって申し訳ありません。お読みいただき本当にありがとうございます。私事なのですが、来年受験のためしばらく更新をするのは厳しいかもしれません。気長にお待ちいただければ幸いです。 (2020年1月21日 15時) (レス) id: 38c890fd29 (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - とても面白いです！！続きがとても楽しみです。更新まってます……！！ (2020年1月2日 23時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こよひ | 作成日時：2019年5月2日 23時
