±10cmから見る景色

side Ki 1 ページ2

「今から15分休憩にします！」


だんだん暖かくなって、春の陽気を感じるこの頃

そろそろ桜の季節かな なんて
世間は新しい季節に向けて少し浮足立ってくる

街のショーウィンドウもすっかり春色に染まり、装いも軽やかになる


そんな中で 窓一つない薄暗いスタジオという名の倉庫で 俺達は季節の移り変わりを感じる暇もなく 多忙な毎日を過ごしていく



「あ、ここなんだけど、ちょっといい？」



新しいアルバムの発売日が決まって、
PVの撮影、ジャケ写の撮影、ダンスの振り付け、、

スケジュールはいつだって山積みだけど
やらせてもらえることに感謝




千賀が振り付けてくれた
新曲のサビ振りを入念に確認する



「みつ、右ターンだと次の動き辛いかな？ちょっと変える？」
　

「あ〜、そうだなぁ」




鼻歌に合わせながら、自身の姿を確認して千賀の前で軽くステップを踏んだ



「じゃあ、ここガヤとの交差、反対にしよっか？そうしたらスムーズかな？」


二人で試行錯誤しながら、もう一度動きを確認する


「そうだなぁ、じゃあ俺、藤ヶ谷にも聞いてくるわ！」





振り返ると、少し離れたセットのオブジェの上に腰を掛けて、水分を含むアイツの姿


側にあったタオルで、おでこから滴る汗を拭いながら藤ヶ谷の方へ歩みを進めた


しかし、今日も暑いな
セットの上に設置されたライトが
更に暑さを加速させる

もう本格的に春到来だなぁ

そんなことを思いながら





「あのさ、このサビのフリの動きなんだけど、千賀と相談して変更しようかと思ったんだけど」




ペットボトルキャップを締めながら、藤ヶ谷が視線を俺に向ける



「オチサビ？」


「そう、ここの交差なんだけど、、」



藤ヶ谷の前で、変更前のターンでステップを踏む



「で、ここのあとが、、」



真剣な藤ヶ谷の表情を伺いながら、
変更を相談しようと思っていたその時までは



俺たちの身に、あんな災難が降りかかるなんて、多分お互いに予想していなかったはずだった

side Ki 2→←プロローグ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す