たゆたうココロは.2

side F ページ27

嬉しいとか、安心とか、そういうたぐいの感情を認識するより前に、北山の手を引いていた



「ユニットの、尺、考え直さないといけなくなったから」


嘘ではないけど、別に急ぐ話ではない
そう、言い訳をして北山を連れだした

少し離れた小さめの会議室に、北山を促す



「・・・」

「っ・・・」


あの日以来の二人きりに嫌でも沈黙が俺達を包む

視線を上げると、同じように不安げな瞳を揺らす北山の顔があった

だけど、その顔を見つめると、不甲斐ないくらいに緊張する



「あの、さ」

「・・・」



ぎこちない空気と、言葉

伝えるなら、今じゃないのか



「・・ごめんな。」


一言、そう告げた

北山は、ドアの前に立ち尽くしたまま、俺のほうを見ない

さっきの玉の態度、ふるまい

北山のほうを優しく見つめながら、北山を守るように座っていて
北山もそれに安心したように、柔らかな表情をしていた


離すつもりなどないのに、現実を突き付けられた

いや、そもそも最初から俺のモノではないのに


玉の事、好きなの？

俺との夜は嘘なの？

なんで、俺に抱かれたの？


玉とは…どうなったの？？


聞きたいことなんてごまんとあって、だけどそんなカッコ悪いことを聞き出せずに、今も黙ってしまう

もしかしたら、俺と関係を持つ前から二人はそういう中だったのだろうか
俺が怒ることはお門違いで、本当は俺が浮気相手だったのかもしれない

たまたま北山の気まぐれで、抱かせてくれただけかもしれない



「ごめん…傷つけて」


そう北山のほうを見て、告げると、その大きな瞳に水滴が見る見るうちに溜まっていった



「きたや・・」


思わず駆け寄ると、ぽろっとその頬に涙が伝う


きっと、俺の思う何倍も、傷つけてしまった

今更詫びたところで、取り返しがつかないかもしれない

触れようとして頬に伸ばした手を、グッとひっこめた




今触れる権利は・・俺にあるのかな、と







「ちょっと。ミツ泣かせないでくれる？」


ふと、気づかぬうちに声がして、慌てて振りかえると、険しい表情をしたままこちらを睨む玉が、ドア近くの壁にもたれかかりながら、
こちらを見ていた

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