それは、タカラモノ 〜第四章 最愛〜

side Ki ページ33

こんなところに来たのは、久しぶりだった

仕事で来たことはあるけれど・・プライベートではいつ以来かな

あぁ、そういえば、カンボジアに行ったっけ・・・



藤ヶ谷は、最後まで俺を心配していたけれど、
俺の推察を話して、最後には納得してくれた

まぁ、スマホのＧＰＳはバリバリ入ってて、ちょっとでも怪しかったらすぐに警察を呼ぶって騒いでだけどな




視線を向けたここを行きかう人々は、多様な肌や髪の色をしており
時に飛び交う日本語以外の言語

アナウンスで流れる流ちょうな英語

カラカラと、スーツケースを引きながら、忙しなく行きかう人々を横目で見ながら、先ほどテイクアウトしたホットコーヒーに口をつけた

今日を逃したら・・・もう無理だ


出国審査の近く
ゲート番号の上の表示された飛行機の便名と、行先を確認して、すれ違う人々を見つめて、その顔を探した


ふと、少し離れたところを真っすぐに歩く、ロングヘアと、ピンヒール

そのシルエットには、見覚えがあった

咄嗟に駆けだして、その女の前に立ちはだかった



「よう」

「・・・あら、誰かと思えば。こんなとこで待ち伏せなんて、趣味悪いオトコね」





そういって、毛皮のロングコートに身を包んだ、真っ赤な口紅の女



「お前・・仕事やめてパリに行くって聞いた」

「あら、それでわざわざ見送りに来てくれたの？あれだけ痛めつけられた相手を見送りに来るなんて、アンタ頭おかしいんじゃないの？」



そういって、あざ笑うように俺を見た彼女は・・
かつて、従順なメイクスタッフとして俺達をサポートしてくれていたはずの女だった


「もう私が、ただのメイクのマリちゃん、じゃないって十分わかってるんでしょ。あたしと神崎の関係も」


女はそういうと、俺の横を通り過ぎようとした
その背中に、俺は思っていた疑問を真っすぐに投げつけた


「おい、お前・・神崎を裏切ったんだろ・・ホントは、あの男に、こんなこと辞めさせたかったからじゃねーのか・・？」



俺の言葉に、かツンと響いていたピンヒールの音が止まった

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