それは、タカラモノ 〜第四章 最愛〜

side F ページ3

いつもどおり、ベッドの上で読みかけだった小説に手を伸ばした
ページをめくるも、その内容はちっとも頭に入ってこずに、今朝見たの夢ばかり思い出す

昨日、ひどく辛そうに見えた北山の顔
それと今日の夢が重なって、俺はひどく混乱していた



誰も、何も言ってくれない



北山は・・何か知っているのだろうか




「藤ヶ谷さーん、点滴の時間です」


看護師さんが、点滴棒をガラガラと引きずりながら、ドアから顔を出した


「あ・・はい」

「だいぶ、顔色もよくなってきてますね、来週には点滴の回数も減らせるかな」

「本当ですか？！」



毎日毎日針を刺されているのも正直辛い

よかった

みんなに教えたら・・北山に教えたら・・喜ぶかな



「はい、じゃぁまたあとで見に来ますねー」


カチッと俺の手の甲につながれたチューブを装着して、滴下の様子を見た看護師さんが、
笑顔で病室を後にした



「・・・よ」


その、白衣が見えなくなるのと入れ違いで、入ってきた北山の姿


「あ・・北山」



今日は、もしかしたら来てくれないかと思っていた

だからいつも通り、大きめのマスクに顔を埋めて、黒いハットを目深にかぶった北山の不器用な笑顔に、ほっとした


「よかった・・今日は普段より元気そうじゃん」

「うん・・点滴も減らせるかもって」

「よかったじゃん」



そういって、ふと目を細めた北山がマスク越しに微笑む


「悪いんだけど、俺今日あんまり時間なくてさ」

「え」

「いや・・どうしてもってわけじゃねーんだけど、夕方収録の前に、仕事の打ち合わせで確認したいことできてさ」


「・・・」



思わずうつむいた俺を、北山の手がポンポンと頭に触れた


「そんな顔すんな、また明日来るからさ」

「明日・・」

「そ」



またね


その言葉を・・なぜか懐かしく感じた

なぜだろう、そんな変哲もない言葉・・



「ねぇ・・」



北山なら、何かを知ってるんじゃ

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