それは、タカラモノ 〜第四章 最愛〜

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「お前、荷物これだけ？」


事件から、あっという間に三か月近くが過ぎて、俺は今日、退院することが許された

「そうだけど・・あ、いいよ？」

「いいよ、お前まだ病人なんだから俺が持つ」


そういうと、言葉はぶっきら棒だけど、俺のボストンバックをひょいッと持ち上げた北山が、
真っすぐに歩いていった

その背中は、小さいけれど、頼もしく見えて、なんだかいつもの北山がここに帰ってきてくれたような、そんな気がした

「お世話になりました」


ここに入院している間に、たくさんの人にお世話になり、挨拶をすますと、北山と一緒にタクシーに乗り込んだ
北山は、ずっと窓の外を見ていたけれど、その横顔を見ていると、ふと目が合う

「おめでと、退院」

そう言って、ふっと微笑んでくれた





「家、久しぶりだなぁ・・」


変わらないはずの自分の家なのに、一歩そこに足を踏み入れると、
新鮮な空気と、なんだかくすぐったい気分

三か月ぶりに我が家に、少しだけ心が躍った


「荷物ココ置いとくな」

「ありがとう」

「あ、お茶でも飲む？」



俺がキッチンへ向かうと、

「イイよ、お前は座ってろよ」

そういって、北山に制された
何なら寝ていろとばかりに、ベッド脇まで背中を押される



「ずーッとベッドの上で生活してたから動きたくてさ。あ、北山おなかすかない？お昼食べる？なんかとろうか？」


がさがさと、ベッドサイドにあるサイドチェストの中を漁った

「あれ、ここに出前のカタログあったはずなんだけどー」


奥深くから、適当に何冊かチラシを取り出して北山のほうを向く


「お寿司とー、ピザと、あとは・・」

俺のその動作を、ゆっくりと見つめている北山


「なぁ、なにがいい、北山は・・」


その、北山の前に、チラシを差し出して、彼の顔を見たその時だった


「・・きたやま・・？」


視線に違和感を感じて、ふと名前を呼んだ


「・・よ」

「え・・？」



小さな声で、何かを呟いた北山の、その表情は、なんだかとても辛そうで・・
最近、いつもの笑顔が増えた気がしていたのに

「おい、どうした・・？」

「ふじがや・・」

「ん、どうした？なんか、」



ぎゅっと、俺の着ていた、カーディガンの裾をつかんで、その大きな瞳が○んだままで・・
俺を見上げた

不安そうな色が、北山の大きな瞳の中で暗く揺れる
それと同時に、俺の心がざわついていく


ねぇ、藤ヶ谷


そう小さく言った北山の唇が、震えるように言葉を紡いだ





「抱いて」

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