Last Joker

Ki 32 ページ32

『あの日…お前に出会って、俺は…命を賭した…ジョーカーかも、しれねぇ…お前に…賭けたんだよっ…』

『ふじ、がや…』

『はぁっ…だから、っ…だから…今度は…』


藤ヶ谷が、ふらつく足で、地面をぐっと踏み込んで、俺との距離を詰めるように顔を覗き込んできた
虚ろだった目が、大きく開かれた



『俺に…北山の、命…賭けてくれよっ…』


その目が、強く、消え入りそうな光を宿して語りかける
俺をまっすぐに見つめた黒の瞳、



一瞬だけ、すべての時が、


止まった




バカやろっ…
そんな目で見るなよ…

そんなこと、

そんなこと言われたら…俺はお前を止められない




『お前に俺のすべてを、賭けるっ…』


藤ヶ谷の右手を、握った



もう、迷わない
胸に光が、ある限り

今はここで、絶望を置き去りに
絶望の鎖に引きずられることは、もうしない

ぎゅっと、藤ヶ谷の腰を掴んで、勢いよくバイクの後ろに飛び乗った


『行くぞっ…』



鳴り響くサイレン
赤い赤色灯が背中に映る

唸りを上げて、スピードを置き去りにして走り抜けるハイウェイ

夜風が、傷口をえぐるように冷たく響く

だけど、真正面からその風を受ける藤ヶ谷は、もっと辛いだろう

耐えるように、噛み締めた唇
藤ヶ谷を守るように、しっかりと身体を抱きしめた

どんな時も、この大きな背中とその香りを頬に感じて、
俺は…この数年を生きてきた

なのに、今は、その体温が低い
血の気が…引いていっているのがわかる


ふと、後ろを振り返ると、すぐそこまで迫ってくる追手

マズい…


『きたやまっ…振り返るな！』

『え…』

『俺を、信じろ…』

『藤ヶ谷…』

『お前だけは…絶対に、落とさない、たとえ死んでも、お前だけはっ…！』


その、言葉に、藤ヶ谷の腰に回していた手をぎゅっと握って、いつもより低い体温の背中に顔を埋めた


『そうだっ…お前は、俺の背中だけ見てろっ…俺の背中、預けんのは…お前だけだ、からな…』


振り返らず、そうつぶやいた藤ヶ谷の背中に、流れる涙を誤魔化すように押し付けて、大きく頷いた

ふと、視線を横に移すと、見つけたオレンジの光


『あ…藤ヶ谷あれ…！』

『っ！！』



藤ヶ谷が、ちらりとハイウェイから見える湾岸線の方を見た
藤ヶ谷も、俺と同じくそれに気づいたように、身体に力を込めた

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