±10cmから見た日常 (ページ31)

今日:1 hit、昨日:7 hit、合計:131,623 hit

side F ページ31

結局、原因は何だったのか、戻れたのは何故なのか、よくわからぬままに二人の身体は元に戻った

ただ一つ、わかったときは、北山と長く深く、キスをしていて、目を開けたら、正真正銘の北山の顔がそこにはあったという事だけ

こうして、俺達の入れ替わりの生活は、約1か月の時を経て幕を閉じた

「なぁ、またキスしたら入れ替わんのかな」

ぼそっと呟いた北山を見下ろす

いつも通りの身長差

自称、常に地面にめり込んでいる彼は、いつも通り、俺よりひとまわり小さかった

特徴的な、いつも通りの、クリっとした北山の大きな瞳がそこにあった

「・・試してみる？」

うかがうように、合わせた視線
俺がそういうと、わかりやすくパッと目を逸らして耳まで赤くしている北山の姿

自分から誘ったくせに

「逃げんなよ」

俺がそう言って、ボストンバックを持った北山の右手をつかむと、
窺うように俺のほうを見上げてきた

まあるく見開いた目が、俺と合う

チャリンっ・・

あの日北山に渡した、合鍵につけた鈴がなった

指を絡ませて、右手を繋ぐと、フローリングにボストンバックが鈍い音をたてて落ちた

「っ・・ふじが、や・・？あ、あの・・」

こうやって、北山と近い距離にいることに、少しだけ慣れてしまった俺の身体

何度も何度も、あぁ、この表情は北山本人の顔で見たい、なんて思っていて

ありえないと思っていたお前との共同生活も
実は本当は・・割と楽しかった

なーんて、俺が言ったら、お前は笑うのかな

「な、おい・・また、入れ替わったらどうすんだよ！」

俺に右手を繋がれたままで、うろたえる北山の顔
だけど、その目は、本当は期待してるんじゃないかと思ってしまうから