±10cmから見た日常 (ページ30)

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番外編　これからの二人ページ30

綺麗に隅々まで掃除機をかけて、フローリングまで磨いたソコは、チリ一つないくらい綺麗だった

今はもう、見慣れた、脱ぎっぱなしの片方だけの靴下もなければ、
朝起きたときによく見かけた、ビールの空き缶も見当たらない

ベッドルームは、キレイにメイキングされていて、いつも、寝坊助なアイツのせいでおきたままの形になっていたはずの布団は、
すっかりと皺が伸びて綺麗だった

トイレットペーパーを変えていなくて言い争うことも、
洗面化粧台に、俺以外の短い茶髪が落ちていることも、もうきっとないのだろう

知らぬ間に慣れた、二人分の米を炊くことも、
多めの具材を入れた味噌汁も、もう作る必要はない

今日から俺は、また今まで通り、一人に戻るだけなんだ

「こんなもんか！」

奥の部屋から、掃除機を引っ張ってきた北山が、にっこりと笑った
その、笑ったときにできる目じりの皺を、久しぶりに見た気がする

「・・ありがと」

「まーここには、世話になったからな」

俺を見て、目を細めた北山は、もう「俺の姿をした北山」ではなく、

正真正銘の北山だった

昨日、互いの身体が、戻った

久しぶりに、お互いの本体に戻った俺達

嬉しい

やっと自分自身として過ごせる

なのに

少しだけ胸が痛む

よし掃除終わりッと、明るく言った北山の背中を見つめた

「これで、藤ヶ谷もゆっくりくつろげるじゃん」

「っ・・」

そういって、俺を見たその目は、

笑顔のはざまで、少しだけ伏せられていて、

なぁ、俺の勘違いかな

本当は、北山も思ってくれているんじゃないかなって、期待するのは間違いなのか

二人の生活が、終わる

それが少し・・寂しいだなんて