それは、タカラモノ 〜第三章 幻影〜

side F ページ39

「あ、北山っ！」

北山は、ここ最近毎日のように俺の病室へ顔を見せてくれるようになった


「どう？調子は」

「ん、悪くないよ」

日々、傷は回復していって、背中だから自分じゃ見えないけれど・・
医師にも、なかなかの回復力だとほめられた

だけど、俺よりも、その話を聞いて、北山はまるで自分のことのように嬉しそうな顔をしてくれる

別に、北山のせいじゃないのに
忙しい時間の合間を縫って、
こうして俺のもとを訪れてくれる


「この間、千賀がさー」

そうやって、何気なく、普段のメンバーの様子を教えてくれる


「次の新曲なんだけど、衣装が・・」

そうやって、笑顔で、俺のほうを見て、
北山が微笑んでくれる

いつも、少しだけ遠くから見ていた北山が、俺の隣にいてくれるんだ

早く、戻って来いと、北山は言わない
だけど、グループの話をするときに、当たり前のようにそこに俺もいるように話をしてくれる

北山の言葉が、俺にはとても嬉しかった


北山とこうして向かい合うと・・

当たり前のようで、なのになぜだろう

目を覚ましてからずっと
その北山の笑顔がふとした瞬間に



泣いているように感じるのは



「藤ヶ谷・・？」

「あ、ごめん・・」

「疲れたか？」

「いや・・大丈夫、ごめん、ぼーとしてた」


俺が、笑顔を作ると、北山は少しだけ考えたような顔をした後に

「そっか、無理すんな。そろそろ寝とけ」

と笑って見せた


ほら、また
その笑顔が、なんだか、泣き顔のようにみえる

なんでかな…

昔から、何故かお前のことには敏感なんだ



「北山・・あのさ」

「ん？」

「俺‥事故ったって・・」

「・・あぁ」


渉や、ほかのメンバーから事故にあって入院したと聞いていた
だけど、その割には、先方から謝罪の一つもなく、マスコミにも嗅ぎつけられていない
事務所が、頑張ってくれたらしいと聞いたけれど、
俺が被害者の事故ならば、そんなに躍起になって隠すこともないのではないか


「今、いろいろと大変な時期だからさ」

渉はそう言っていた



「ねぇ、俺・・なんで事故にあったんだろ」

「・・さぁ、な」

「なんか・・違和感を感じるんだ・・」

「・・・」

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