それは、タカラモノ 〜序章 疑惑〜

side Ki ページ9

藤ヶ谷が、神妙な面持ちで俺を誘うから、きっと仕事のことで悩んでるんだろうと思った

今、ドラマや舞台、新曲の関係で、もしかしたら７人で一番忙しいかもしれない


もしかしてまた寝不足になってるのかな？

気づかれないように、そのキレイな横顔をコソコソ盗み見みては、そんな心配を抱えながら、藤ヶ谷の表情を窺っていた







俺の予想と反して、藤ヶ谷の口から出てきた言葉は、ニカの心配だった

最近、ニカの元気がないのは、なんとなく気づいていた

ツアー初日も迫ってきて、昨年同様構成を担当してるアイツの心労も相当なものだったと思う

普段おちゃらけている分、あまり思いつめるタイプには思われていないけれど、意外とまじめだし悩んだりもする奴だ

声をかけようか、もう少し見守ろうか、そんな風に思っていた時だった






藤ヶ谷が、俺が気づかなかったニカの爪先の変化まで気にして心配していたことには少し驚いたけど、

そんなところもアイツらしいし、何より自分じゃなくて、「北山のほうが上手くやれる」と、

決してうまくやれないわけではないくせに、そう言ってしまうところも藤ヶ谷らしい





一昔前なら、見守るなんて選択肢はなくて、ずけずけとニカの心の中に入り込んでいたかもしれないけれど

少し大人になったのか、はたまた臆病になっただけなのか、少し身を引いて弟組を見つめるということができるようになった


言いたいことも、素直に言えなくなってしまう

随分と、つまならない大人になってしまった気がした


お互いにいい年のとり方が出来たらいいな

そういった、藤ヶ谷の言葉を思い出す



なぁ…

俺は

言いたいことも、伝えたいことも、うまく言えないままだよ



お前にだって、

あの日の、ありがとうすら、

言いそびれてしまって、もう随分と経ってしまった

side Ki→←side F

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す