みんなの宝物 10 ページ35
ASide
あんなこと、言うはずじゃなかったのに……
ごめんなさい…って、
怒ってないよ…って、
心ではそう思ってるのに……
なのに、出てくる言葉は
気持ちとは正反対のものばかり。
意地を張ってるのか
自分でも自分のことがよくわからない。
一人じゃどうすることもできないのに、
こうして助けようとしてくれてる
おにぃ達を自分から遠ざけて、どんどん孤立していく。
それがどうしようもなく怖くて
もうどうすればいいのかわからなくて、
枯れ果てたと思っていた涙は
再び洪水のように溢れ出て止まらなくなった。
息も上手くできなくて、どんどん苦しくなって、
このまま死んじゃうんじゃないかってくらいの
恐怖感に襲われる。
今更助けてなんて言えない…
でも、私の口は無意識に
大切な人の名前を呼んでいて、
まだまだおにぃに頼りっぱなしなんだなって思った。
こんな我がままで自分じゃ何もできない妹だけど
捨てたりしないでほしい…
ずっと一緒にいてほしい…
私だけじゃダメなんだ。
ゆいを、守ってやれない…
助けてください……
力を貸してください……
息苦しさに意識が遠のきながらも
そう心の中でつぶやくと、
布団の中に温かい手が入ってきた。
もう一人になるのは嫌で
すがるようにその手にしがみつく。
すると今度は両腕で身体を包み込まれて
背中を撫でられながら耳に穏やかな声が入ってきた。
震える手を大きな背中に伸ばして
ぎゅってくっつくと、
小さいころから大好きだった優しい香りを感じて…
今まで苦しくてもがいていた気持ちが
スーッと治まっていくのがわかった。
「か…にぃ……かず、にぃ…」
こうして抱きしめてもらったのって
いつぶりだろう……
小さいころはよくしてもらっていた。
和にぃの腕の中が、私は大好きだった。
小さい子にするみたいに
ゆっくり身体を揺らしてくれて、
優しくて優しくて
溶けてしまうんじゃないかってくらいの
甘い声が荒れた心を癒してくれて、
あれだけ苦しかった呼吸も
いつの間にか落ち着いていた。
そんな私に見せた
和にぃのふわっとした笑顔。
その瞬間溢れてきたものは止められなくて、
私は和にぃにしがみつきながら
結心がいじめられちゃうって、子供みたいに泣いた。
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作者名：ちさ
| 作成日時：2013年6月29日 14時
