パパが治してあげようね *ARS* 7 (ページ20)

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松岡先生のお説教　8　(翔) ページ20

松岡Side

翔が中川さんと本気で向き合っているのは知っている。

今回のことだって、
中川さんのことを思っての行動だろう。

俺は自己満足を
責めるつもりで言ったんじゃない。

たまには自分を見つめ直すのも
いいかと思ってな。

医者なんて誇りがなきゃやっていけないよ。

自己満足だって、
それが患者さんの命を救うことになるなら
それでいいじゃないか。

患者さんの望むこと、
それが自分の望みでもあるわけだから。

翔「ごめん、なさい……
俺の、判断ミスでした……」

松「翔はどうしてその判断をした?
言ってみな」

少し厳しくし過ぎたのか
唇を噛んでうつむいていた翔は、
大きく息を吐き出してから
ぽつぽつと話し出した。

翔の口から出てくる言葉は、
俺の想像していたことばかり。

やっぱりな……
優しすぎなんだよ、翔は。

そして驚くほどに素直だ。

ちょっとは俺の言葉に反論してみろ。

自分の意見を突き通してみろ。

俺に押されて自分の意志を曲げるなよ。

松「…いいんじゃねぇの」

翔「えっ…」

松「自己満足でもいいんじゃねぇのって」

翔「で…でも……」

強い思いがあったから、
中川さんは翔に心を開いた。

翔の治療なら受けたいと思ってくれた。

時には患者さんの意志を尊重するのが
ベストの時もある。

でも、今回は治療を行うことが
一番いい選択なんだって、俺でもそう思う。

そしてそこまで引っ張っていってくれた翔に、
俺は感謝をしている。

あのまま何もせずに
死を待ち続けるのは嫌だよな。

まだまだ助けられる命なのに。

松「中川さんさ、
自分の店始めたばかりなんだってさ。
奥さんが言ってたよ。
お金ためて、海外に旅行に行くんだって。
やりたいこと、いっぱいあるんだろうなぁ」

翔「……はい」

治療を拒否していたのは
生きることを諦めたからではなくて、
突如として襲われた
死の恐怖についていけなかったから。

でも今は、ちゃんと自分の命と向き合ってる。

俺が中川さんに会いに行くとさ、
いつもの医者はどうしたって必ず聞いてくるんだよ。

翔が間違ったことをしてたら、
絶対に患者さんはついてこない。

中川さんは誰よりも翔のことを信頼してる。

そしてそれは、
感謝してるってことにつながるんじゃないのか。

きっと今はお店も成功させて、
海外にも行ってやると思っているはずだ。

もっと自信を持ってもいいと、俺は思う。