0歳のママ 5 ページ28
智Side
智「一回大きく吸ってごらん?
そうそう。苦しくない? 大丈夫?」
自然に落ち着くまで泣かせてやろうと思ってたけど、
あまりにも呼吸が乱れていたから
背中をたたきながら少し大きめに声をかけた。
Aの顔と僕のお腹の間に指をさしこんで、
口元にできるだけ隙間を作ってやる。
そうしないと、酸素が足りなくなっちゃうから。
あまりにもぴったり顔を押し付けてくるから、
ちゃんと息できてるのか心配なんだ。
「ごめん・・なさい・・・」
智「ん?」
深呼吸をしたことで少し落ち着いたのか、
Aがボソッとつぶやき始めた。
小さな声が服に吸収されてさらに小さくなって、
耳に神経を集中させておかないと、聞き逃してしまいそう。
「もうすぐ・・・なのに・・・・」
智「うん。」
「わたしがこんなだから・・・」
智「うん。」
「どう・・やっても・・・これ、なくならない・・・」
震えるAの手が大きく膨らんだお腹に伸びて、
力のこもった指でつかまれたお腹に、ギリギリと爪が食い込んでいく。
優しく手でさすって、
そっと耳を当てて、
大事に大事にしてきたのに・・・
みんなで何か月も守ってきた命を
壊わそうとしているようで、怖くなった。
でも、Aの顔を見たときに、
それは違うんだって思ったんだ。
「ごめん・・・なさい・・・」
その言葉はきっと、
赤ちゃんに向けられたもので。
そのときのAの表情が、
優しいのに悔しそうで・・・苦しそうで・・・
見ている僕が、悲しくなるくらいだった。
智「Aはこの子にいなくなってほしいの?」
「・・・ん。」
智「あんなに会うの楽しみにしてたのに。
やっぱり子育てするの、嫌になっちゃった?」
「・・だっ、て・・・だって・・・」
ちょっと率直に聞きすぎたかなって思った。
もっと遠まわしに聞いた方がよかったかなって。
でもこのまま何も吐き出せずに、
不安定なまま出産なんてできるはずがないから。
ここでちゃんと、不安も悩みも取り除いてやりたかった。
智「子育てなんて、大変だもんね。
自分の時間も少なくなるし、自由もきかなくなる。
赤ちゃんなんていない方が、楽だもんね。」
「ちがっ・・・そうじゃないっ・・・」
智「ん〜? 自分のためではないの?」
ちょっと強引だけど、
Aが本当のことを言えればいいなって・・・
そう思って、
少し厳しい言葉をかけることも、ためらわなかった。
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作者名：ちさ
| 作成日時：2013年3月23日 18時
