グラグラ 11 (結心) ページ37
雅紀Side
実際に衝突の瞬間を見たわけじゃないから、どれほどの衝撃があったのかは俺にはわからない。
でも傷の状態を見ると、かなりの速さで突っ込んだんだろうなって。
打ちどころも悪かったんだろうね。
雅「よーし、じゃあ早く痛いのバイバイしちゃお〜
急げっ、急げっ」
潤「雅にぃ、やる？」
雅「やる。持ってきてもらっていい？」
少しだけ起こしていた椅子を完全に倒して頭側に移動しながら、潤の短い言葉に返事をする。
少ない言葉だけで会話ができるのは、長年一緒に頑張ってきた相棒だからこそだね。
雅「ここ、ちょっと傷が深いの。
くっつけてあげた方がいいと思うから、2,3針だけ、ね。いい？」
潤に準備をしてもらっているうちに、唇の傷をAと和に見せて治療の説明。
抉れているような少し深めの痛々しい傷にAは顔を歪めていたけれど、和は表情を変えずにコクンと頷いてくれた。
こんなときじゃ忘れがちになるけど、歯医者が大の苦手の和が、こうしてここにいてくれるだけでも凄いことだと思うんだ。
昔は近寄ることすら嫌がってたんだもんね。
医者だから、傷とか血とか見慣れてるのかもしれないけど。
でも、トラウマのある場所にいて、なんともないはずはないんだよ。
潤「はい、雅にぃ」
雅「お、ありがと〜。これ終わったら一旦休憩にするから。頑張ろーね！」
潤から受け取った麻酔の注射器を手にして、涙の流れる頬をしっかり固定しながらみんなに声をかける。
結心も、Aも、和も。
もう少し…もう少しだから。
結「やー！うえーん！」
雅「やだよね〜。あと10数えたらおしまいにしよ？
ほら、数えるよ〜。せーの。いーち…」
目の端っこから、ポロポロと止まることなく流れていく涙を見ていると、つい眉が下がってしまう。
でも可哀相だとか考えてる時間は、結心のためにならないから。
今は手を止めずに、潤と一緒にカウントダウンして、がんばれがんばれ、ってね。
雅「きゅーう…じゅう！ほら、おしまいだ！やったぁ！
ゆいちゃん、すごい。よく頑張ったね〜」
注射器をトレイの上にコトンと置いたのと同時に、みんなの手が一斉に結心から離れた。
すぐに手袋を取って、びしょびしょになった顔をガーゼで拭いてあげる。
雅「あ。ありがとね、潤」
潤だってすぐに頭を撫でてやりたいだろうに。
スっと立ち上がって俺の代わりに使い終わった注射器をすぐに片付けに行ってくれるところ、本当に優しくて気の遣える男だよね。
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作者名：ちさ
| 作成日時：2014年10月4日 20時
