パパが治してあげようね *ARS* 12 (ページ7)

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小学生のまーくん　7　(雅) ページ7

雅紀Side

お父さんに「痛い」って言っておけば、先生にでも智にぃにでも「怖い」って言っておけば、こんなふうに気持ちが追い詰められることは、きっとなかった。

素直になれていればって後悔したよ。

それにお父さんは優しかったけど厳しさもある人だったから。
逃げたことがバレたら怒られるんだろうなって、そんなことを考えたら余計にその場から動けなかった。

雅「ひぐっ…ふぅっ…うぅ…」

この涙が何によるものなのか自分でもよくわからない。
後悔の涙か、恐怖の涙か、寂しさの涙か。

でも人間ってさ、安心した時にも涙がでるんだね。

「はぁ、はぁ…よかった～、こんなところにいたんだね」

頭上から荒い呼吸と一緒にゆっくりとした声が聞こえて顔を上げたら、ニッコリ笑った井ノ原先生と目が合った。

俺に向きあうように屈んだ先生は声を荒らげることもなく、俺の頭にポンって手を置いてくれたんだ。

井「無事でよかった。心配しちゃったよ。
どうした? 不安なことがあった?」

雅「せんせっ…んっ…ボク…ボクね…?」

井「うん…」

雅「ボクぅ…うっ…うぇっ…」

優しくしてくれる先生に今なら話せると思った。
いや、話さなきゃいけないって。

まだまだ未熟だった俺にも、これは「迷惑」なことだって、「してはいけない」ことだってわかったから。

でも、涙ばっかり溢れて言葉が出てこなかったんだよ。

井「お迎えに来たよ、雅紀くん。一緒に戻ろうか。
それで、歯医者さんに雅紀くんが思ってることを話してみよう。
もちろん、先生に話してくれてもいいよ」

本当なら頭叩かれて怒鳴られて引きずられて連れ戻されても仕方ないって思ってた。
なのに、先生は俺の言い分を聞こうとしてくれたんだ。

一方的に怒鳴りつけて反省させる方が楽なんだよ。
でも先生は絶対にそんなことはしなかった。

もちろん叱られたこともあったけど、必ず言葉のやりとりがあったことを覚えてる。

井「どう? 言いたくはないこと?」

雅「んっ…はなせっ、る…」

井「じゃあ戻ってお話してみようか」

雅「でも…歯医者さっ…おこって…」

仕方ないとは思っていても怒られるのはやっぱり怖い。

立ち上がった先生が手を差し出してくれているのに、あと一歩が踏み出せなかった。

「怒ったりしないよ、まーくん」
「そーだよ。歯医者さん優しかったもん!!」

そんなときに聞こえた2つの声。

俺の両隣に来て手をぎゅっと握ってくれてさ、その存在にどうしようもなく安心したんだ。