夏の思い出 14 ページ38
翔Side
ダウンライトの薄い明かりの下で。
淡い光に照らされた智にぃの表情は、よく見えないのによく分かる。
少し高めの囁き声は、小さいのによく聞こえて。
聴診器を動かす手からは、直接肌に触れていないのに確かな温かさを感じる。
もう夜も遅い。智にぃだって眠いはずなのに…
いつもどんなときでも、この人は変わらず丁寧で優しいんだ。
智「今日は珍しくドキドキしてないね」
翔「え?…そう?」
智「あ、速くなった。トクトクトク…」
翔「言わないでよ、恥ずかしい」
智「ふふ。はぁーい」
暗くてよく見えないからかな。
緊張するのは今も昔も変わらないけど、なぜだか今日は落ち着いていた。
なのにさ、そんなふうに言われると、変に意識して心拍数上がっちゃうよ。
智「お腹痛いとかは?気持ち悪いって言ってたけど」
翔「うーん…なんか腹が気持ち悪いって言うより、頭が気持ち悪いって感じ…」
智「そっか…でも念のため」
丁寧に胸の音を聞いていた手がお腹に移ってきて、ポンポンと何箇所にも当てられた。
でも不快感はまったくなくて。
動かし方とか、当て方とか、もちろん耳に入ってくる声も。
全部に智にぃにしかない優しさがあるから、だから俺は、この人を尊敬せずにはいられないんだ。
智「ちょっと押すよ……どう?」
翔「痛くない…平気」
智「ん、大丈夫そうだね。お腹しまっていいよ」
胸にも腹にも異常なし。
一瞬だけ電気をつけて顔色や口の中まで診てくれたけど、重症じゃないし大丈夫って言ってくれた。
智「一晩寝て様子を見ようか。点滴してもいいけど。どうする?」
翔「しない。しません。しないです」
智「ふふ、だよね〜。それじゃあ…」
冗談に本気で返答した俺を笑いつつ、聴診器を鞄の中に戻した智にぃが立ち上がる。
そのまま歩いて行って、雅紀の枕元にしゃがみこんだ。
智「んーーよいしょっと」
そのまま徐ろに、寝ている雅紀の身体をコロンと転がしてスペースを作って。
そこに腰を下ろした智にぃは、俺を笑顔で手招きした。
翔「な、なに?」
智「ん?寝るでしょ?ここ」
当たり前のように、隣のスペースをトントンと叩きながら言ってくる智にぃ
隣で寝るのか…
恥ずかしいけど…でも心配してくれてるんだよね。
智「じゃあ寝よっか」
翔「うん…今日は、ありがと」
智「こちらこそ、ありがとね」
隣に温もりを感じながら眠る。
たまにはいいな、こういうのも。
おやすみ。
また来年も、今年以上の思い出を。
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作者名：ちさ
| 作成日時：2014年6月28日 23時
